物流のコンサルティング機能と実行機能の2つを兼ね備え、高度なサービスを提供するヒガシ21グループ。長期ビジョンと中期経営計画を各社に浸透させるグループ経営への転換で、2030年にグループ売上高500億円を目指している。
大阪市中央区に本社を置くヒガシトゥエンティワン(以降、ヒガシ21)は、関西を基盤に事業を展開する物流企業だ。設立は1944年。大阪市東区(当時)の運送会社13社が統合し、大阪陸運局輸送事業免許第一号としてスタートを切った同社は、戦禍で甚大な被害を受けながらも、戦後のトラック輸送の需要拡大や積極的な市場開拓によって規模を拡大。業界でいち早く傭車制度※を導入し、倉庫業への参入、首都圏への進出など、新しい挑戦を繰り返して成長を遂げてきた。
2016年にはM&Aも開始し、ヒガシ21を中心とするグループ経営を推進している。首都圏での事業拡大に加え、事務所移転・引っ越しを請け負うオフィスサービス事業やビル内の配送を効率化するビルデリバリー事業、3PL事業といった付加価値の高いサービスによって事業領域を拡大。6つの連結子会社を含むグループ全体の売上高は2020年3月期に251億円、経常利益は10億円に達するなど、業界内で存在感を高めている。
2021年3月期は、コロナ禍の影響で売上高は244億円と微減したが、本社間接費を中心とした経費削減や収益性の低い事業のコスト構造改革を実施し、経常利益は過去最高の12億円となっている。2022年第1四半期は売上高65億円(前期比18.1%増)、経常利益5億円(同140.6%増)で引き続き堅調な業績動向にある。
競争が激しい物流業界で急速に事業の裾野を広げられた理由が「物流設計能力」だ。執行役員で企画部長兼IR・広報部長の新井慶景氏は、この力がヒガシ21グループの競争力の源泉だと言う。
「物流設計能力はグループ内で使われる造語で、『複雑なモノの流れに対応した、人×マテリアルハンドリング×倉庫×車両×システムを最適に組み合わせる能力』です。当社は物流企業グループとして、顧客が求める最適物流を提案するだけでなく、その運用まで担ってきました。この実績が今日の信頼獲得につながっていると認識しています」(新井氏)
※自社の仕事を協力先の運送会社や個人事業主のドライバーに依頼する制度
ヒガシ21グループは、2015年に初の試みとして「長期経営ビジョン2025」を策定。さらに、実現に向けた事業戦略を3年間の中期経営計画として打ち出し、取り組んできた。
その結果、第2次中期経営計画(2019年3月期から2021年3月期)の目標数値であった売上高250億円、経常利益10億円、従業員数750名、首都圏売上比率35%、ROE(自己資本利益率)6%以上といった主要項目を1年前倒しで達成。第1次中期経営計画のテーマであった構造転換に続き、第2次中期経営計画で目指した積極投資や不採算事業の収益改善についても成果が表れた。
計画を上回るペースで目標を達成した理由はいくつかある。まず、社内の変化だ。企画部課長の久原大輔氏は、「長期ビジョンと中期経営計画を関連付けることで、グループの方向性や各事業部の目標が明確になりました。現場に『ビジョン実現に向けて手を打っていこう』という雰囲気が生まれ、目標達成のスピードアップにつながったと感じています」と説明する。
また、本社と各事業部の関係の変化も挙げられる。もともと統合した13社が得意分野を伸ばしながら競い合って成長しており、戦略や投資も各事業部の裁量で決定・負担する形だったが、長期ビジョンの策定を機に、中期経営計画に基づいて本社が投資予算を確保し、各事業部の要望も踏まえながら計画的に投資していくスタイルに変えた。各事業部が安心して将来を見据えた投資を行える環境を整えたのだ。このことも全体の収益改善や成長につながった。
一方、長期ビジョンを推進する過程で、課題がいくつか顕在化した。
「2015年に長期ビジョンを策定した際に盛り込んでいなかった課題や時代の変化、それに伴う社会的要請が、2020年までの5年間で見えてきました。例えば、自動運転・自動倉庫なども含むDXへの対応、予想を上回る労働力不足、『働き方改革』への要請、SDGsへの取り組み、リスク対応力の強化などです。
また、成長を続けるためのシステムや人材、組織体制、自社車両、倉庫といった社内インフラの整備や、本社ホールディングスの機能強化の必要性を感じていたことから、2020年の社長交代のタイミングに合わせ、新体制の方針も含めた新たな長期ビジョンを策定しました」(新井氏)
2020年7月に発表した新長期経営ビジョン『ヒガシ21グループVISION2030』(以降、VISION2030)では、「お客様に最高のサービスをお届けするために変革し続ける企業」を目指す姿として設定した。さらに、その実現に向けたコーポレートスローガン「Evolution for Customers-全進で未来へ“シンカ”-」を制定。同スローガンには、未来に向かってグループ全従業員が一丸となって前に進む「全進」、自社サービスをさらに「進化・深化・新化」させてステークホルダーに「新価」を提供するとの思いが込められている。(【図表】)
【図表】長期経営ビジョン「VISION2030」
長期経営ビジョン2025では示していなかった明確な数値目標を掲げたことも大きな特徴だ。具体的には、「2030年に売上高500億円」。現在、全売上高の約30%を占める重点事業領域比率(オフィスサービス事業、ビルデリバリー事業、3PL事業、M&A)を63%まで上げるほか、規模拡大の要となる人材についても従業員数1850名という目標を設定した。
「初めて長期ビジョンを策定したときは、10年後の目標数値を設定することができませんでした。それが5年間、長期ビジョンや中期経営計画に取り組んだことにより、先を見通す力がグループ全体で養われました。
実は、前回の長期ビジョンは本社が中心となって策定しましたが、今回の数値目標は各事業部や子会社のトップが示した10年後の目標を積み上げた数字をベースとしています。経験を積んだことで、『どういった会社になりたいか』という思いを共有しながら、本社と子会社・事業部が共同で長期ビジョンを策定できる仕組みができつつあります」(新井氏)