見栄えや響きが良いだけの旗印を掲げるよりも、社員が納得し、前向きに働けるグループになる。そして、本当に目指したいと思える姿を道標に定めたい――。そんな思いを言葉の随所ににじませる小島氏は、新たな体制が機能するキーワードに「ヒト」と「カネ」を挙げる。
ヒトの面では、事業会社別の採用を廃止し、ホールディングスのグループ採用を開始。異業種で構成するグループだからこそ多様な経験が可能になり、社員にとってもキャリアを磨いて成長の舞台を広げるメリットが生まれた。
「ホテルの仕事を志望して入社した人でも、『建築の方が面白い』と感じたら挑戦するチャンスがあります。経営的にも、グループ内の異動によって必要な事業へ必要な人材を投入できます。その大切さも、コロナ禍であらためて実感しました」(小島氏)
採用後の育成については、新入・若手社員を対象にグループ共通の研修制度の仕組みづくりに着手した。アーバンホテルなど、各事業のサービスを相互利用できる福利厚生の充実にも力を注ぐ。コジマグループで働くメリットを実感できることで、離職率を低減する狙いだ。
「カネ」の面では、経理・財務部門などの経営管理機能をホールディングスに集約する「シェアードサービス化」を目指す。また、個別に実施していた資金調達も、ホールディングスが担当して各事業会社に供給する流れに変更。グループ戦略に即した効率的な資金運用が可能となった上、属人化していた管理業務や金融機関対応のリスクヘッジにもなる。
「各事業会社のトップは事業運営に専念でき、業務も効率化して生産性を向上できます。従来から事業会社を1つのコジマグループと位置付けて見ていた金融機関と同じ視座に立つことになり、金融機関からも前向きな評価をいただいています」(小島組)
さらにもう1つ重視するのが、グループコミュニケーションの活性化によるシナジーの発揮だ。小島氏の視線は多角化による地域貢献から、さらに一歩進んだ「地域のファンづくり」を見据えている。
「困り事があれば、真っ先に当社に相談してほしいと思っています。解決後はファンになってもらい、持続的な関係性を深めていけたら、と。
また、福祉事業を自ら運営する強みは、建設事業において社会福祉施設の施工案件を増やす営業提案につなげることができる点です。戦略的な方向性と地域のニーズをマッチングしやすくすることで、事業展開がスムーズになる善循環が生まれます」(小島氏)
グループ経営によるシナジーでプラスアルファの価値を創り出す仕掛けも始まっている。各事業会社の社員が、月1回、地域の公園や交差点の花壇を手入れするCSR活動だ。作業後は、小島組が施工を手掛け、アーバンが運営する「厚木アーバンホテル」でランチを楽しみ、社員同士の懇親も深めている。
また、2020年2月には農業法人を新設。特別養護老人ホーム施設の目の前にある耕作放棄農地を購入し、入居者が育てたコメをホテルのレストランで提供。一般に開放する庭園もつくり、地域農業を支援する拠点に育てていく計画である。
「小規模の農業単体では、事業化は難しいです。しかし、シナジーによって福祉事業の認知度やグループの存在感が高まり、地域にも付加価値が生まれるなら、事業の選択肢の1つになります。
今は小島組がグループ売上高の大きな割合を占めますが、国内の建設業は依然として厳しさを増していきますし、グループ事業のどこがへこんでもカバーできるように意識しています。ホールディングスなら思い切った資金運用もしやすいので、これからが楽しみです」(小島氏)