YUKI Methodの最大の特徴は、製品開発と製造技術開発もホールディング会社が担う点だ。新しい製品開発や技術開発についても同社が先頭を切り、バックアップの機能を担っている。
大坪氏が由紀精密の立て直しに成功した要因は、開発部門の立ち上げと航空・宇宙分野への参入だった。由紀精密時代に計画したこの成長戦略をグループ各社でも目指すという考え方だ。
「もちろん、各社の技術力を把握した上で進めています。すでに当社との連携で、新しい製品や技術が生まれています」(大坪氏)
グループ会社の1つである明興双葉は電線・ワイヤーハーネスの製造会社で、0.05mmという髪の毛よりも細い線を連続的に加工できる量産伸線技術に長けている。一方、由紀精密の取締役社長である永松純氏は、かつて「超伝導科学技術賞」を受賞したほどの超伝導※領域の分野の専門家。この2つの分野を融合させて生まれたのが「超伝導ワイヤー」の研究開発プロジェクトである。医療機器、船舶・航空機、自動車のモーターなど幅広い分野への供給を狙い、将来的に応用展開されれば、大きな売り上げを生む製品として期待されている。
そのほかにも、明興双葉の小ロット・多品種・短納期という企業特長が宇宙衛星向け部品の要求特性と一致していることから、由紀精密の顧客であった宇宙ベンチャー企業に対して営業活動を行い、地上テスト用ハーネスの受注に至っている。
グループ化によるシナジー効果だけではない。各社の製品や新技術の開発に対する意欲もより強くなった。例えば、由紀精密ではかねてより開発していた高品質のアナログレコードプレーヤーを発表し、「YUKISEIMITSU AUDIO」ブランドを立ち上げた。オーディオ雑誌の表紙に掲載されるなど、目の肥えたオーディオマニアの垂涎の的となっている。
さらに、グループ各社の新たな取り組みは、同社の広報部門がメディアやSNSを通して情報発信。新製品や技術に関する情報が、それを欲する取引先や消費者に届けられ、新たなビジネスチャンスを生む。そんな好循環が生まれている。
※特定の金属などを低い温度に冷却することで電気抵抗がゼロになる現象
「YUKI Methodの構築で企業文化も変化している」と、大坪氏は顔をほころばせる。大坪氏自ら新製品に対するアイデアも出すが、基本的には現場の社員に任せるというボトムアップの経営スタイルを貫いている。
課題がないわけではない。由紀HDのホールディング経営は、まだ始まったばかりだ
「まずは、由紀HDの代表取締役社長としてグループの業績を伸ばし、さらに機能強化することで、グループ各社をより強力にバックアップしていきたい。その上で、2025年までにはIPO(株式公開)を果たしたいと考えています。
ただ、IPOは目的ではなく、あくまでも手段。私の当社株式所有率を下げてリスクを減らすことと、IPOによって多くの資本家から資金調達を行うことで、製品開発力の強化を図りたいと考えています」(大坪氏)
現在は多くのグループ会社が各技術に特化した工場を保有しているが、明興双葉では、ハーネスや電線の製造、さらにはアルミ鋳造品の加工などができるハイブリッド仕様の新工場を立ち上げ中だ。それぞれの分野で繁忙期と閑散期があるため、1つの工場で各製品が臨機応変に生産できる仕組みを模索している。また、他のグループ会社のOEM工場としても稼働させることで、生産性の向上にも役立てる予定だという。
「今後も、さまざまな分野に製品や技術を供給できる要素技術を持っている企業と一緒に『ものづくりの力で世界を幸せに』という当グループの使命を果たしていきたいと考えています」(大坪氏)
PROFILE
- 由紀ホールディングス(株)
- 所在地:東京都中央区京橋2-6-14 日立第六ビル6F
- 設立:2017年
- 代表者:代表取締役社長 大坪 正人
- 売上高:約58億5200万円(2020年12月期)
- 従業員数:300名(グループ計、2021年4月現在)