グループ会社が持つ優れた技術の消滅を防ぎ、先端産業に応用する由紀ホールディングス。各社の個性を重んじ、開発を重視する「YUKI Method(由紀メソッド)」で、グループ全体の経営基盤を安定させ、技術開発に注力できる環境をつくっている。
ルイ・ヴィトン、ディオール、ヘネシーなど、ファッションから香水、宝飾、酒類などさまざまな分野の有名ブランドを抱えるフランスのホールディング会社のLVMH(エルヴェエムアッシュモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)。そんな世界的グループ企業を標榜する日本の中小企業グループがある。精密切削加工、電線・ワイヤーハーネスの製造などを手掛けるものづくり企業12社が参加する由紀ホールディングス(以降、由紀HD)だ。
一見すると、ファッション・宝飾分野と工業部品は結び付かない。だが、「目指すべきホールディング経営の在り方がLVMHにある」と、同社代表取締役社長の大坪正人氏は語る。
「LVMHは100年の歴史を超える一流ブランドが集まり、各社の個性や伝統を生かしながら生産性の向上や情報発信力を強めることで、グループ全体の競争力を高めてきました。当社もグループ各社が独自の技術を持っており、それらの技術を継続的に発展できるホールディング経営を目指しています」(大坪氏)
グループ企業は計12社(【図表1】)。各社が長年にわたって受け継いできた技術を伝承し、発展させるという目的を由紀HDが担っている。
【図表1】グループ企業一覧
大坪氏は2017年に由紀HDを設立し、翌18年には明興双葉など計8社を率いるVTC-MHD(VTCマニュファクチャリング・ホールディングス)の発行済み株式の70%を取得する形で買収。当時VTC-MHDを率いていた是松孝典氏(2021年4月にVTC-MHD代表取締役を退任)から、ものづくりに対して同じ思いを抱く大坪氏にバトンを渡す形で事業を継承した。
由紀HDの設立は2017年だが、大坪氏はその10年以上も前から「ものづくり企業のホールディング経営化」の構想を温めていたという。
大坪氏が由紀精密に入社した2006年当時、同社は経営危機に陥っていた。その立て直しを図るために、大坪氏は在籍していたエンジニアリングサービスのインクス(現SOLISE、東京都千代田区)を退職し、由紀精密に入社した。
入社後は新たに開発部門を立ち上げ、同社に蓄積されていた高い技術力を生かして航空・宇宙部門、医療部門を新規開拓。少しずつ収益を改善した。そして由紀精密の経営が軌道に乗った2017年、温めていた構想の実現に乗り出したのだ。
「前職のインクスは、高速金型事業でものづくりに変革を起こしたベンチャー企業です。在籍時には野村證券のグループ会社と連携し、『雷鳥ファンド』と呼ばれる金型革新ファンドを運営していました。ファンドと言ってもキャピタルゲインを重視するのではなく、優れた技術を持つ金型企業に出資し、技能の伝承や経営改善を図る活動を行っていました。出資することで事業を再生していく考え方に共感していたので、ホールディング経営では同じことを目指しました」(大坪氏)
この初志を貫くために構築したのが、「YUKI Method」である。資本や人材に限りがある中小企業で、管理部門を抱えながら製品づくりを行うのは難しい。そこで、【図表2】のように、資金調達、事業戦略、人財採用・HR、企画広報・デザイン、製品開発、製造技術開発、システム・IT・IoT、営業戦略・海外展開の各部門を由紀HDが担当し、グループ各社を下支えしている。
【図表2】由紀ホールディングスの機能をプラットフォームとして各社が活用(YUKI MethodTM)
「グループ会社によって組織体系や状況も異なるため、一律ではなく各社の状況に合わせた支援が必要です。現在は実証実験ベースでYUKI Methodを構築しています」(大坪氏)