Founder’s day――。創立記念日をそう呼ぶ企業は、未見に挑み、苦難を乗り越えてきた創業者に対して敬意を込めてFounderと呼ぶ。入社の条件として難題を突き付けられ、新事業を創造、成長させ、持続する道を切り開いた後継者の視座と軌跡をたどる。
本業以外に新事業を立ち上げ、自分の給料を半年以内に稼ぎ出せ。友安製作所の代表取締役社長・友安啓則氏が、この条件付きで当時社長だった父の友安宏明氏(現会長)に入社を認められたのは2004年である。高校で米国へ留学し、MBA(経営学修士)を取得後、現地商社で働いて充実の日々を送っていたが、宏明氏の体調不良を機に帰国。家業への愛着や父と一緒に働きたいという思いから、3代目として後を継ぐ決意を告げた矢先に受けた洗礼だった。
「当時、私を含め社員は6名。カーテンレールのフックなどの線材加工品メーカーで、業績は右肩下がりでした。父は自分の代で廃業を決めていて、『戻ってきたら迷惑だ』と。父が出した厳しい条件は『ビジネスは甘くない。諦めて他社へ就職する方が良い』という愛情だったのです」(啓則氏)
決算書で債務超過の現実を知り、焦燥感が湧き上がった。「何とかしなければ」。その思いが、条件達成へのエネルギーに変わった。着眼した新事業は、前職のキャリアを生かせるインテリア・DIY用品の輸入販売で、ビジネスモデルは「No Middleman」。徹底的に中間業者を省き、高品質な商品をより安く顧客に届けるのが狙いだ。
「当時のインテリア市場は、小売店→問屋→商社→海外商社→海外問屋→海外メーカーという発注プロセスがあり、それぞれに利益が上乗せされ、店頭では驚くほど高価でした。店員に『ブランド品ですから』と言われても、誰もが知るブランドじゃない。ややこしい流通システムのせいで、エンドユーザーが搾取されている状況を壊してやろう、と」(啓則氏)
独りで自社ブランド「Colors」を立ち上げ、商品とカタログをトラックに積んで日本全国を行脚。百貨店やインテリアショップへの卸売りを始めた。商品にもこだわった。機能性に特化し“隠すもの”だったカーテンレールに、“見せる(魅せる)”価値を加えようと、あえて装飾性の高いものを仕入れた。
これまでにない提案は反響を呼んだ。宏明氏との約束を3カ月前倒しで達成した啓則氏は、さらにECショップをスピード開設し、エンドユーザーと直接つながる販売チャネルも切り開いた。
「顧客の困り事を解決すればビジネスになる。長い間そう言われてきましたが、便利な世の中になり、昔と比べて解決ニーズは多くありません。市場に存在し続けるには、いまあるものに、まだない価値を加えて提供することです。当社のつっぱり棒『クラシカ』はアンティーク調など意匠的な価値を高め、2000円を超えても売れ続けています」(啓則氏)
No Middlemanの流通フローと、Add valueの付加価値を追求し続ける友安製作所。時代や顧客が求める価値を的確に知る意味でも、その姿は業種業態を問わず、新事業に挑む道標となっている。
Colorsの卸売り拡大は当初、試練が続いた。既存ブランドのメーカーから横やりが入り、納品先のインテリアショップから返品されたこともある。
「実はその既存メーカーは当社のフックの納入先で、両親の仲人もした会社。Colorsが当社のブランドだとバレたので、父に叱られると思いました」(啓則氏)
ところが、再び想定外の展開が待っていた。「お前はNo Middlemanで1億2000万人を相手にしようとしているのだろ?」。宏明氏の言葉は、「メーカーの圧力にひるむことなく挑め」という激励だった。また啓則氏も、取引がなくなることで既存ブランドの商品群が店頭から消えるリスクをインテリアショップが恐れたことに気付き、Colorsの品ぞろえを充実させる転機にした。
ECショップは、草創期のヤフー(東京都千代田)が運営する「Yahooショッピング」で初月から50万円、翌月には150万円の売り上げを上げて急成長。楽天(東京都世田谷区)運営の「楽天市場」にも出店し、自社ECサイトもオープンした。わずか3年で月間の売上げは1000万円に達した。
「カーテンレールは職人が取り付けるものというイメージを払拭。DIYであれば取り付け料金が不要になり、数万円も得ですよとアピールしました」(啓則氏)
今、ECショップは全社売上高の7割強を占める。挑戦から10数年を経た2016年、啓則氏は社長に就任し、経営も拡大ステージを迎えた。2008年のリーマン・ショックで相次いだ倒産を反面教師に、外的環境に左右されにくい多角化を推進し、新たな経営の柱づくりが同年にキックオフした。
「企業理念に掲げるミッションは、『Add Colors to everyone’s home(全世界の人々の生活の一部に自社製品を)』。住生活に関わる全てに取り組んで『友安経済圏』をつくっていこうと考えています」(啓則氏)
2015年に開店させたカフェでは、誰もが気軽に同社のインテリアを体感できる。リフォーム事業では、DIYではなくプロに任せたいという人に選択肢を提供。レンタルスペース事業では、人口減少で増える空き家を収益空間に変え、Colorsブランドのショールームに変えた。メディア事業では、ウェブコンテンツの発信に加え、ホームパーティー文化を根付かせる活動を70社と連携して推進している。
「今後5年間で人口が約400万人減少すると言われている中、いかに成長軌道を描けるか。コロナ禍による巣ごもり需要の影響で、ホームパーティーで室内に招待客を招き入れることによって住生活は変わり、インテリアだけでなく家電やアートの需要も広がります。シャープ(大阪府堺市)など多くの企業が『文化にしよう!』と一緒に動き出してくれています。
エンドユーザーの優先順位は、自動車よりもライフスタイルや旅行、食です。今後は、より家族や友人と過ごすための『時間』に価値がシフトし、生活文化の中心になっていきますよ」(啓則氏)
軸のぶれない多角化でシナジーが生まれ、企業コラボレーションでwin-winなエコシステムを創り出す。目指す「友安経済圏」は、着実にその姿を現し始めている。
売上高20億円企業へと成長を遂げる中、友安製作所は人を育てる仕組みにもユニークな工夫を重ねてきた。啓則氏が「BOSS」、宏明氏は「DON」と呼ばれるニックネーム制度もその1つだ。
90名以上に増えた社員が年齢や役職、拠点の隔てなく自ら決めたニックネームで呼び合うことで、気兼ねや疎外感が消えた。また、互いの努力や姿勢を「いいね!」と評価する表彰制度「TOMOYASU AWARD」を実施。業務日報に「workspace」、社内連絡に「Slack」というデジタルツールを採用するなど、誰が、何を考え、どう行動しているかを、オープンコミュニケーションで「見える化」している。
「承認欲求が強いと言われる若い世代は、給与よりも会社や仲間に認められることが重要です。そこがしっかりと育まれる環境があれば、社員同士の誤解や疑念が消え、一体感も高まります」(啓則氏)
デジタルツールだけに頼らず、啓則氏は1対1の社長面談も続けている。面談シートの最初の質問は、「いまの会社で変えてほしいこと」。その願いがかなうと社員の行動が変わり、数年たつと要望ではなく自分が達成したい目標を語り始めるという。
「自分が何かしても会社は結局変わらない。社員がそう思ってしまうのが一番残念だし、もったいないです。何かを実現しようと思ってもらいたいのです」(啓則氏)
1人でも主役になり、会社を変えられる。その姿は、まさに啓則氏が有言実行してきたことだ。30%を超えていた退職率は0%に近付いた。
そしていま、友安氏は「ものづくりへの回帰」を旗印に掲げる。新事業が経営の柱に育ち、本業だった線材加工品の売上比率は4%になった。鉄や針金の加工機械・技術・人、自社にそろう「ものづくりのリソース」を、新たな価値づくりへスピンオフさせる挑戦だ。自社デザイナーのオリジナル家具・什器の製作など、新たに「友安家具製作所」が始動する。
「ゴールは売り上げではなく、ライフスタイルをデザインすること。売れるかどうかよりも、その商品で顧客の生活がどう変わるかが重要です。より良い暮らしの選択肢をつくる、格好いい会社・社員・商品であり続けたいですね」(啓則氏)
PROFILE
- (株)友安製作所
- 所在地:大阪府八尾市神武町1-36
- 設立:1963年
- 代表者:代表取締役社長 友安 啓則
- 売上高:20億9000万円(2021年1月期)
- 従業員数:94名(2021年3月現在)