コロナ禍においてユーザー数を伸ばし続ける口コミグルメアプリ「SARAH」。メニュー電子化サービス「SmartMenu」とアプリとの連携によって、飲食店のリピート率向上をサポートする。
スタートアップ企業のSARAH(以降、サラ)が提供するグルメコミュニティーアプリ「SARAH」が快進撃を続けている。コロナ禍による外出自粛や飲食店の時短営業などの影響を受け、「食べログ」「ぐるなび」をはじめとする外食系口コミグルメサイトが軒並み低迷する中、SARAHのアクティブユーザー数は前年を上回る伸び率を堅持。Uber EatsやPICKS、menuなどといった各種デリバリーサービスとの連携も奏功し、2020年8月には前年同月比200%増と高い成長率を記録した。
SARAHのサービスを一言で説明するなら、「ごはん探しアプリ」。他の口コミグルメサイトのレビューが店舗情報中心なのに対し、SARAHは「ソフトクリーム」「ラーメン」などメニュー単品のレビューが並ぶ。飲食店ではなく、食べたい料理を検索できるところが最大の魅力である。
単品を検索できるメリットは、自分の好みに合った一皿を見つけられることだ。例えば、「ハンバーグが食べたい」と思ったとき、ハンバーグを食べられる店は他の口コミグルメアプリでも簡単に見つけられる。ただし、その店のハンバーグが自分の好みであるとは限らない。
その点、SARAHは、ハンバーグ単品に対するレビューが投稿されているため、写真やコメントを通して見た目やソースの種類、食感、価格などが確認できる。しかも、SARAHは外食だけでなく、コンビニエンスストアの弁当やスーパーマーケットの総菜といった中食まで検索可能。それが、コロナ禍における「少人数での食事」「中食ニーズの高まり」といった食のシーンの変化とうまくかみ合った。代表取締役の高橋洋太氏は次のように説明する。
「これまで外食は大人数での会食が中心でしたが、コロナ禍では少人数が主流になりました。大人数で集まる場合、大抵は店選びから始めますが、家族や個人で食事をする場合は食べたい料理から決めることが多い。それが、料理単品の検索が伸びた理由です。
もう1つは、中食の検索。SARAHには中食に関するレビューも多く投稿されています。そのニーズは非常に高いと感じています」
ユーザー数の拡大に伴って、レビューの投稿数も右肩上がりで増えている。SARAHの累計投稿数はすでに70万件超。高橋氏によれば、「主要都市であれば、食べたい『ごはん』に出合えるだけの十分な数が集まっている」状態だ。その上で、同社が今後のテーマの1つに挙げるのがレコメンド機能である。
「レコメンドは、これから特に強化していきたい部分です。音楽や映画などではサブスクリプションサービスを中心にレコメンドが定着しています。しかし、食分野では利用が進んでいませんでした。これまで大人数の会食が中心だったことが大きな理由ですが、食についても個人が単品を検索する機会が増えており、レコメンドが使える環境になってきた。その意味で、SARAHはレコメンドとの相性が良いと思っています」(高橋氏)
同社が2020年5月に発表した飲食店向け電子メニュー化サービス「SmartMenu」も、飲食店向けのマーケティングを意識して開発された。ICチップを搭載した専用端末や、二次元コードにスマートフォンをかざすだけで電子メニューが立ち上がるサービスが、新型コロナウイルス感染防止対策になる非接触接客ツールとして注目を集めており、すでに全国100店舗を超える飲食店への導入実績がある。
専用端末のスマートなデザインもさることながら、特に目を引くのが使い勝手の良さだ。広く普及している二次元コードを利用した電子メニューは、「スマホのカメラアプリの起動」→「二次元コードの読み取り」→「メニューの表示」というように複数のステップを要するのに対し、SmartMenuは来店客が個人のスマホを専用端末にかざすだけ。ワンアクションでメニューを表示できるユーザー視点の開発が光る。
今のところ、機能は非接触でのメニュー表示のみだが、「夏ごろまでに、注文・決済までできるように準備を進めています」と高橋氏。実現すれば、ユーザーへのレコメンド機能の質が一気に向上する見込みだ。
「SmartMenuで注文ができるようになると、『誰が』『いつ』『どこのお店で』『何を食べたか』といった個人の行動データが蓄積されていきます。また、SARAHと連動することで、コメントからユーザーが『料理をどう感じたか』といった感想まで分かる。こうしたデータを組み合わせることで、プッシュ通知も含めた的確なアプローチが可能になります。再来店だけでなく、テイクアウトやデリバリー、通販も含めたレコメンドによって、飲食店のリピート率や売り上げ向上をサポートしていきたいです」(高橋氏)
顧客の行動データをどう活用するか。これは、生活スタイルが変容したアフターコロナにおけるビジネスのポイントになるだろう。「食生活が変わると、データの重要性が高くなります。以前からデータの必要性は高まっていましたが、コロナ禍によって拍車が掛かったように思います」と高橋氏は指摘する。
例えば、同社が2019年12月にリリースした、外食市場や顧客ニーズのトレンドが分かるビッグデータ分析サービス「FoodDataBank」は、使用料が月額55万円(税込み、年間契約)と決して安くないが、コロナ禍で導入を希望する企業が相次いでいる。
簡単に説明すると、FoodDataBankはSARAHに投稿されるレビューをデータベース化したもの。単品ごとの投稿数を集計したトレンドランキングのほか、メニューとキーワードの相性分析や、実際にユーザーが投稿した写真やコメントを確認できる定性分析など、商品開発・販売促進・営業活動に役立つ機能が組み込まれている。
仮に、「プリン」というキーワードで相性分析すると、「素材」「調味料」「味」「食感」「見た目」といった項目に関するコメントを集計してグラフ化される。これを見れば、ユーザーがどの項目に関心が高いかが一目瞭然だ。さらに、個別の項目をクリックすると、より具体的なワード(「食感」であれば、「固め」「柔らかめ」「滑らか」「しっとり」など)と増加率が表示される仕組みである。
すでにセブン-イレブン・ジャパンや雪印メグミルク、日本食研ホールディングス、ハウス食品といった大手企業を中心に導入が広がっている。「SmartMenuで得た情報はFoodDataBankにも連動させます。SmartMenuの利用が広がってより多くのデータが集まると、FoodDataBankの価値はさらに高まるでしょう」と高橋氏が話すように、消費者の嗜好と行動データが結び付くことで、より幅広い業種に導入が広がる可能性は高い。
SARAHとSmartMenu、そしてFoodDataBankが連携した暁には、サラは食(Eat)とテクノロジー(Technology)をつなぐEatTech企業として新たな成長ステージを迎える。今後の展望について高橋氏は、「一番やりたいことは、ユーザーが本当に求めている『ごはん』と出会う機会をつくっていくこと。シンプルにそこに取り組んでいきたい」と言う。「よりよいごはんとの出会いをつくる」という同社のミッションそのものだ。
「食の価値は多様化しています。『おいしいごはん』のほかにも、『健康に良いごはん』や『環境に良いごはん』『美容に良いごはん』『サステナブルなごはん』などのさまざまなニーズが出てきていますから、まだまだデータを改善する余地があります。もっと幅広いニーズに応えていきたいと考えています」(高橋氏)
また、FoodDataBankを通して日本の製造業のすごみを再認識した経験から、「日本の食の価値を世界に届けていきたい。ここに高いモチベーションを感じています」と高橋氏は続ける。
「商品開発の現場を見て、商品の背景には、相当な努力の積み重ねがあることを知りました。日本の製造業のレベルは本当に高いと思います。世界のオンラインプラットフォームだけを見ると日本は出遅れた感がありますが、『リアル(製造/商品開発)×ネット×食』というステージなら勝機があると感じています。食のニーズをデータ化して日本の製造業と掛け合わせると、素晴らしい商品ができるはず。この分野なら世界でも十分に通用すると思います。データの精度を高めることで、将来的にはその場に携わっていたいです」(高橋氏)
スタートアップとして、常に新しい価値を提供するサラ。飲食・食品業界の未来を切り開く上で、同社の果たす役割は大きい。
PROFILE
- (株)SARAH
- 所在地:東京都台東区浅草橋2-25-10-2F
- 設立:2014年
- 代表者:代表取締役 高橋 洋太
- 従業員数:33名(連結、2021年2月現在)