TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

新価値創造

世の中に提供された価値は、 時代や経営環境・市場の変化によって必ず陳腐化する。 企業の持続的成長には、 新規事業開発や新市場開拓が必須なのだ。 コロナ禍という逆境へしなやかに対応して新たな価値を創造し、 新しい市場を開いた先駆者の「価値の生み出し方」 に迫る。
2021.05.06

水インフラに縛られない生活様式を提案する水道いらずの手洗いスタンド:WOTA

 

 

 

 

水道のない場所でも、電気コンセントにつなぐだけで、きれいな水で繰り返し手を洗えるポータブル手洗いスタンド「WOSH(ウォッシュ)」。開発したのは、東京大学発スタートアップのWOTAだ。

 

 

入店時の手洗いで感染防止を図る

 

2020年12月19日と20日、銀座通りの歩行者天国や商業施設(銀座伊東屋、GINZA SIX、Ginza Sony Park、東急プラザ銀座、銀座松屋、銀座三越)に20台のスタイリッシュな手洗いスタンドが設置された。買物客が、蛇口とソープディスペンサーの付いた白いドラム缶の前に立ち止まり、手を洗ってから各店内へ入る光景があちらこちらで見られた。

 

「WELCOME WASH GINZA」。銀座通連合会が、コロナ禍においても安心して買い物ができる環境があることをPRしたイベントである。その主役として活躍した白いドラム缶が、水循環型ポータブル手洗い機「WOSH(ウォッシュ)」だ。

 

「電源さえあれば、手軽にどこにでも設置できる『公衆手洗い機』としてWOSHを開発しました。水道管への接続は必要なく、タンク内に収納された20Lの水で、いつでも手を洗うことができます。使用後の水はフィルターなどで再生処理し、一度20Lの水を入れたら500人まで手洗い可能。水の再生循環による節水効果は約98%です」

 

WOSHの特長をそう説明するのは、WOTAの執行役員CCO(Chief Community Officer:最高コミュニティ責任者)、市橋正太郎氏である。設置が簡単で使い勝手の良いWOSHは、新型コロナウイルスの感染リスクに対する不安の影響で客足が遠ざかる商業施設や飲食店などから、有効な対策の1つとして大きな注目を浴びている。

 

 

自律分散型水循環システム「WOTA BOX」
水道がなくてもシャワーや手洗いが可能な水循環システム「WOTA BOX」。排水をろ過して繰り返し循環させることで、排水量を通常の50分の1以下に抑えることができる。100Lの水で約100回のシャワー入浴が可能なため、災害時をはじめ、屋外イベントなどさまざまなシーンでの活用が考えられる

 

 

災害支援で活躍したWOTA BOXの技術を転用

 

WOTAが最初に視線を集めたのは、「WOTA BOX(ウォータボックス)」の開発によってである。WOTA BOXは、WOSHと同様に限られた水を浄化して繰り返し使える仕組みの自律分散型水循環システム。宇宙ステーションで使う水再生循環処理装置と同じ機能を、コンパクトかつ安価に提供する目的で開発した製品だ。

 

「当社は2014年に創業した東京大学発ベンチャーです。水処理やソフトウエア開発などの技術者が集い、水循環システムによって水に関する地球のさまざまな課題の解決に役立てたいという志で開発に取り組んできました」(市橋氏)

 

開発当初、「水循環システムによって水問題を解決する」という大きなテーマはあったものの、製品化に苦労する時期が長く続いた。その後、大手メーカーの新製品の企画・開発を実現してきた経験のある前田瑶介氏(現代表取締役社長CEO)が参加し、自律分散型水循環システムの製品化を実現したという。

 

まず、同社が狙いを定めたのは、オフィス市場だった。ところが、オフィス内に配管不要で設置できる水循環シャワーとして開発を進めていた2018年、「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」により多くの地域で被害が発生。同社は被災地の岡山県倉敷市真備町に試作中のWOTA BOXを持ち込み、ボランティア活動を行った。

 

「避難所で生活をする被災者の方に、とても喜んでいただけました。真夏の猛暑に泥まみれで何日も風呂に入れない状況の中、『久しぶりにシャワーを浴びた』と顔をほころばせる方々の姿を見て、自然災害の現場で貢献できると確信したことが、WOTA BOX製品化のきっかけとなりました」(市橋氏)

 

この経験を基に、同年9月に発生した北海道胆振東部地震の際に設けられた避難所でもWOTA BOXの試作品を活用。100Lの水で約100回のシャワー利用が可能な、災害への備えにも役立つ製品として実用化にこぎつけた。

 

2019年1月には、台風で被災した千葉県や神奈川県、長野県の避難所で活躍。2020年に同社が開催した避難所開設・運営のオンライン講座には、全国500以上の自治体が参加した。

 

災害対応で大きな成果を上げた同社が、すぐにさらなる製品開発を始めたきっかけは、「感染症を予防して避難所で暮らす人々の健康を守るため、避難所の仮設トイレ後の手洗い機がほしい」という医療関係者の要望だった。WOTA BOXの水再生循環処理技術を転用し、仮設トイレの前に置く手洗い機の試作機を製作した。

 

コロナ禍の影響も大きかった。来店者に安心・安全を提供したいと考える小売店や飲食店の声を聞いた同社は、自社の技術をより多くの人々へ提供するため製品化を決定。2020年2月の開発開始からわずか5カ月後の7月に予約を開始し、12月より出荷をスタートした。

 

 

 

手を洗う間にスマホの表面も除菌
深紫外線を20秒間照射し、「第3の手」とも言えるスマートフォンを除菌。手を洗い終わるころにはスマホも清潔になっている

 

 

新型コロナウイルスなどの不純物をフィルターで99.9999%以上除去

 

WOTA BOXとWOSHの水の再生循環システムは、WOTAが独自に開発した最先端技術だ。一度使った水を何本ものフィルターを通し、何度もリサイクルして使う。水質センサーとAIのディープラーニングによって効率の良い浄化を行い、不純物を99.9999%以上除去して高い安全性を確保している。

 

「いわば、小さな浄水場です。大規模な水プラントの機能はそのままに、サイズを数十万分の1にして自動化を実現しました。この技術により、使った水をその場で処理できるのです」(市橋氏)

 

WOTAでは、膜ろ過・塩素添加・深紫外線照射の3種類で水の再生処理を行い、装置内の複数のセンサーとAIで常に水質を制御・監視している。ろ過に使うROフィルター(逆浸透膜)は、フィルター孔が1nm(ナノメートル)オーダーと超微小で、直径50~220nmのウイルスなども除去できる。これだけでも水は十分きれいになるが、さらに深紫外線照射で殺菌し、塩素消毒剤を加えて水の保管性も高める。

 

また、装置内に取り付けた複数のセンサーで水質を測定し、そのデータをWOTAのクラウドサーバーに送信。水質管理は同社が行う仕組みである。

 

「水を再生して循環利用するコンセプトなので、飲めば水の量が減ってしまいます。そのため飲用は想定していませんが、WHO(世界保健機関)が定めた飲料水水質ガイドラインを満たしているため、飲んでも問題のない、きれいな水を循環させています。設置者が水質管理をする必要がないことも、当社の製品の特長です」と市橋氏は話す。水処理を自動で最適に制御できることが、同社の大きな強みなのだ。

 

WOSHはオープン価格で販売するとともに、月額2万円からでリースも行っている。運用は、備え付けのフィルターをワンタッチで脱着するなど簡単なメンテナンスのみで、専門的な知識は全く必要ない。

 

2020年7月に限定600台の先行予約を開始したところ、想定を上回る数の注文が殺到。2020年12月時点で約4000台の引き合いがあり、増産中だ。購買層は、消費者に安心して来店してもらいたい商業施設や大手カフェチェーン、エキナカなどに商業施設を併設している鉄道会社が中心という。

 

 

 

水不足に悩む世界中の地域への貢献を目指す

 

WOSHには手洗いのほかにもう1つの機能がある。スマートフォンの除菌だ。シンク横のスペースにスマホを入れると、表面に付着した菌を99.9%以上も除菌できる。

 

「スマホは『第3の手』と言えるほど、多くの人が肌身離さず利用しているツールで、コロナ禍の手指衛生管理においても重要です。約20秒の紫外線照射で表面を除菌できるので、手洗いが終わるころに除菌されてきれいになったスマホを取り出せます。手とスマホを同時に清潔にすることで、より安心して商業施設やカフェで飲食を楽しめると好評です」(市橋氏)

 

さらに、「衛生・清潔」以外の活用案も浮上している。メディアとしてのWOSHだ。

 

手洗いとスマホ除菌のため、人は30秒間、WOSHの前にとどまる。この時間を使い、WOSHの前にサイネージを設置して広告などを流す企画が、WOTAに持ち込まれているという。今はアイデア段階だが、今後さまざまな利用法が考えられそうだ。

 

現在、予約されているWOSH約4000台のほとんどは全国の大都市で使用される見込みで、今後も感染リスクの高い東京を中心に設置予定である。さらに、WOTA BOXと同様、台風や豪雨、地震などの自然災害時には避難所へ設置し、公衆衛生にも寄与していく。平時か有事かに限定することなく使える「フェイズフリー」という点も、WOSHの大きな利点だ。

 

当然、海外進出も視野に入れている。特に、新型コロナの感染拡大状況が深刻な米国へ進出し、その後は水インフラが整備されていない地域の公衆衛生にも貢献したいという。

 

「WOSHの本体をドラム缶にしたのも、開発途上国で入手しやすい素材であることを考慮した結果です。ドラム缶は現地調達できるので、センサーなどのコア部材のみを持ち込んで、現地で組み立てるという生産方法も可能。これにより、現地で多くのWOSHを作り、困っている地域へスピーディーに貢献したいと考えています」(市橋氏)

 

「水と人の、あらゆる制約をなくす」をビジョンに掲げ、「2030年に自律分散型の水循環社会を実現する」ことを目指すWOTA。コロナ禍のニーズに素早く応えることで大きく前進した同社は、感染症対策にとどまらず、水不足で悩む世界中の地域に「水革命」をもたらす可能性を秘めている。

 

 

WOTA 執行役員CCO(最高コミュニティ責任者) 市橋 正太郎氏

 

 

 

PROFILE

  • WOTA(株)
  • 所在地:東京都豊島区北大塚2-33-20
  • 設立:2014年
  • 代表者:代表取締役社長 CEO 前田 瑶介
新価値創造一覧へ特集一覧へ特集一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo