「住まいづくりは、幸せづくり」を理念に掲げ、分譲マンションおよび戸建て住宅の事業を手掛ける和建設。住宅市場が縮小する中で、新たな可能性を指し示している。
JR高知駅の近くに本社を置く住宅メーカーの和建設。主に高知県と岡山県において、分譲マンションおよび戸建て住宅を建築・販売する。全国の新設住宅着工戸数が漸減傾向にある中で業績を手堅く伸ばすとともに、ニーズの変化に機敏に対応して事業の幅を広げている地域密着型の企業だ。
その秘訣について、代表取締役社長の中澤陽一氏は「お客さまと共に暮らしと幸せをつくり上げていくビジネスモデルにある」と述べる。
同社の創業は1957年のこと。海軍兵学校に在籍していた中澤氏の父が、戦後に地元の高知市内に復員した際、一面焼け野原となった故郷の街を目の当たりにして、「人々の暮らしの基礎となる建物を建てよう」と一念発起して創業した。
父の代は公共事業や民間建築を請け負い、地場の建設会社として成長してきた。中澤氏が社長に就任してからは、事業の軸足を住宅事業にも広げ、分譲マンションや戸建て住宅などを手掛けてきた。
「1995年に岡山県内で当社初の分譲マンションを建てたのですが、当時は強力な同業他社が存在する中、ローコストだけで勝負した面があります。しかし、それでは当社の良さを発揮することができません。『うちの強みは何だろうか?』と考え抜いた末、設計と施工をワンストップで提供していたことから、ものづくりの『総合力』で勝負しようと決めたのです」(中澤氏)
もともと地域に密着していた同社には、家の建築を請け負う際、施主から間取りや仕様に関する要望を丁寧に聞き出す習慣があった。その企業DNAを基盤として、施主の目線で設計および施工を行う建築会社を追求したのである。同社は、この強みを生かした分譲マンション「BE WELL(ビ・ウェル)」シリーズを、2011年にフルオーダー型商品として提供を開始した。
一般的に、マンションビジネスは収益の最大化に向けて、間取りの共通化と大規模化を志向する。これに対して、和建設は真逆と言える差別化戦略を打ち出したのだ。
「専有部分の間取りやデザインはお客さまの希望を最大限取り入れることができます。また、一般的にはマンション管理のメリットの点から、戸数の規模を追求しがちですが、当社は違います。あくまでお客さまの目線で考えたマンションの提供に努めています」(中澤氏)
以来、お客さまと共に住まいをつくる同社独特の事業スタイルが根付き、お客さまにも浸透していった。現在、多くのお客さまが「フルオーダーのマンション」と知った上で購入を希望するという。
契約後は7~10回に及ぶ打ち合わせを重ね、お客さまのライフスタイルや人生設計などを引き出しながらじっくりと話し合う。
「住まいに対するお客さまのさまざまな思いが顕在化してきます。それを形にするのが私たちの仕事なのです」(中澤氏)
お客さまとの信頼関係を築くことができれば、竣工後も良好な関係が続く。これによって、お客さまのライフスタイルの変化に応じたリフォームを案内したり、中古住宅の流通などの仕事を請け負ったりするといった流れが出来上がりつつある。
「住まいへのニーズは、ライフスタイルの変化に合わせて年々変化していきます。『建てて終わり』のビジネスモデルでは真のニーズに対応できません。
特にこれから先の時代、住まいに対する意識は大きく変わっていきます。『人生100年時代』と言われる中、一度建てた家に永住するとは限りません。また、最近は2拠点で住まいを持つ方がいらっしゃるなど、住まいに対する意識が多様化する中で、住宅メーカーとして時代を先取りした戦略を打ち出すことで、持続的な成長を目指しています」(中澤氏)
「お客さまと共に暮らしと幸せをつくり上げていく」スタイルは、戸建て住宅の事業においても徹底している。同社の戸建て住宅ブランド「SHINKA(シンカ)」では、建築を請け負う際、32項目に上るオリジナルの「暮らしのイメージチェックシート」を用いてお客さまと話し合いを重ねる。
「当社では、とにかくお客さまの話を徹底的に伺います。時間がかかりますが、ここで手を抜くことはありません。話し合いを重ねることで、お客さまと当社担当者との間で、暮らしに関する共通言語が生まれてきます。ここまで達すれば、設計や仕様に関する双方の理解が深まり、お客さまに真にご満足いただける住まいの提供が可能となるのです」(中澤氏)
しかし、中澤氏から見ると理念の追求は「まだ道半ば」とのこと。「全社を挙げてフルオーダーの真価を追求していくことで、さらなる顧客満足を提供していきたい」と強い思いを述べている。
近年、資材や人件費の高騰を背景に、家の建築コストが上昇し、若い世代が手を出しにくい状況となっていることを、中澤氏は懸念している。
そこで、「若い世代のお客さまでも安心して購入できる住まいの提供も当社の使命」と、新たに販売しているのが、イージーオーダーの住まいである分譲マンションの「BE WELL FLEX(ビ・ウェル フレックス)」および戸建て住宅の「SHINKA FLEX(シンカ フレックス)」だ。プランを組み合わせて間取りのセミオーダーができるほか、内装や設備の仕様や色を選べるなど、「お客さまと共に暮らしと幸せをつくり上げていく」住まいを、コストを抑えて提供できる点が特長である。
現在、和建設の事業規模は約80億円。年間で、戸建て住宅を約60~70戸、マンションを100~120戸(約3棟)ほど建てている。
「戸建て住宅は2、3年のうちに年間100戸ぐらいまで受注を増やしていく考えです。しかし、事業規模をむやみに大きくするつもりはありません。『お客さまと共に暮らしと幸せをつくり上げていく』という事業の方向は見えているわけですから、今後はこの理念をどのように発展させていくかが当社の課題です」(中澤氏)
近年、過去に同社で住まいを建てた顧客からのリフォームに関する相談が増えている。現在は個別に対応しているが、今後は事業として仕組みを確立していく考えだ。また、住み替えなどによる中古住宅流通のニーズにも本格的に応えていくという。さらには、高齢社会の進展を踏まえて、高齢者向け住宅のニーズを開拓することも重要課題の1つに据えている。
「サービス付き高齢者向け住宅は、地域に先駆けて2005年ごろから取り組んできました。その間、高齢者の住まいに対するニーズは変化しています。これから先、健康寿命を長く維持される方々のニーズに応える住まいを提供したいのです。私の妻が病院を経営している関係から、住宅と医療をマッチングさせたビジネスの構築ができればと考えています」(中澤氏)
ここ数年、高齢者や小家族の増加を背景に、平屋の戸建て住宅が住まいの新たなトレンドとなっている。「ニーズの変化を敏感に察知し、ビジネスモデル化を図っていきたい」と中澤氏は意気込む。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、2020年以降、人々の意識が大きく変わりつつあることを中澤氏は感じている。
「長らく東京一極集中と言われてきましたが、コロナ禍が続く中、その潮流は変わりつつあります。2020年は変化をもたらした年、そして2021年は潮流が大きく変わり、新たな動きが次々と起こる年になるでしょう。
これからの時代、地方が面白くなっていきます。特に高知は世話好きの人が多い土地柄。人と人との結び付きを大切にするとともに、都会の人々を引き寄せる魅力を持っています。当社も高知に根を下ろしている企業の1社として『地方の時代』を見据え、今からしっかり備えていきます」(中澤氏)
住宅市場が縮小し競争が激化する中で、和建設の取り組みは大きな可能性を示している。
PROFILE
- 和建設(株)
- 所在地:高知県高知市北本町4-3-25
- 創業:1957年
- 代表者:代表取締役社長 中澤 陽一
- 売上高:78億2779万円(2020年8月期)
- 従業員数:125名(2020年8月現在)