その他 2021.03.01

国内外に600人以上の雇用を創出:サラダボウル

 

国内最大級のグリーンハウスでトマトなどを栽培
農業を通じて人を幸せにし、社会を豊かにして、価値ある地域を創ることを目指すサラダボウルのメンバー

 

 

日本の就農人口が減少する中、国内だけでなく海外でも雇用を生み出している農業法人・サラダボウル。大規模施設栽培のトマトを中心に、年間約30品目を生産する同社が生み出す農業の新しいカタチが、仕事と人材、さらには地域を創り出している。

 

 

人材が集まってくる農業の新しいカタチ

 

近年、スマート農業や6次産業化など、農業を巡る新たなキーワードを耳にする機会が増えている。成長産業として農業への期待が高まる一方、深刻化するのが農業の担い手不足だ。自営農業に従事する基幹的農業従事者は2015年の175万7000人から5年間で40万人近く減り、2020年には136万1000人まで減少(農林水産省「2020年農林業センサス」2020年11月27日)。担い手の高齢化や後継者不在が急速に進む中、今後も人材不足の加速が予測される。

 

新たな担い手をいかに確保・育成するか。これが農業における喫緊の課題となる中、大手企業出身者や有名大学卒の若者が続々と集まる希有な農業法人がある。「農業の新しいカタチを創る」をビジョンに掲げるサラダボウルだ。

 

同社は、代表取締役の田中進氏が2004年に設立。山梨県中央市に立ち上げた農園を皮切りに、国内7カ所と海外(ベトナム)に生産拠点を拡大し、各地でトマトをはじめとする野菜や花卉の栽培を行っている。

 

1圃場3ha(ヘクタール)を超える国内最大級のトマト栽培のほか、キュウリ、ナス、葉菜類などの施設園芸を中心とした農園から生み出された雇用は、グループ全体で600名以上(パート社員含む)。今後は静岡県や福島県、宮城県などに複数の農園の開業を予定しており、数年内に社員数は現在の2倍近くまで増えると見込む。農業の担い手育成の成功事例として、さらには地域に雇用を生み出す希望の星として、同社には多方面から注目が集まっている。

 

人手不足の農家が多い中、なぜ、サラダボウルに多くの人材が集まるのか。そのヒントは、田中氏の「農業を魅力あるカタチにしていきたい」という言葉の中にある。

 

また、農業にマーケティングを取り入れている点も特徴だ。あらかじめ消費者のニーズを把握して生産計画に反映することで、消費する側が欲しい商品を、欲しい時期に提供できる体制を構築。生産者と消費者、2つの視点から生産・流通体制をデザインすることで、需要と供給のズレを極力小さくするトータルフードバリューチェーンをつくり上げた。それが適正価格を維持する商品力につながっている。

 

 

いわて銀河農園
サラダボウルのグループ会社であるこの農園は、東日本大震災の被災跡地(岩手県大船渡市)に整備したグリーンハウスでトマトを生産している

 

 

農業の魅力を高め「人を育てる人」を育てる

 

「トータルフードバリューチェーンを通して目指しているのは、消費する側が欲しいと思う商品を、きちんと生産して、届けること。さらに、その先にある、笑顔があふれる食卓の風景です。農業者は、そうした景色を実現できるように、もっと消費の現場に近づく必要があると思います」(田中氏)

 

消費者にとって価値ある商品とは何か。そこを起点にビジネスモデルをつくるのが同社のスタイルだ。その上で、ものづくりの視点から農業を捉え直し、徹底した生産工程管理や品質管理を実施。農業では難しいとされてきた4定(定時、定量、定質、定価格)を実現するなど、農業の新しいカタチを打ち出している。そこに可能性を感じるから、多くの人が集まってくる。農業の魅力を高めること。それが継続的に人材を集める鍵になる。

 

サラダボウルのグループ全体の正社員数は70名を超えるが、各地から多くの引き合いが寄せられる中、急務となっているのが人材の育成である。同社の人材育成ポリシーは、「人を育てる人」を育てること。1000人の農作業者よりも1人の農業経営者を育成する――。その実現に向けて注力するのが、人事の体系化だ。

 

もともと同社は、強い農業現場を目指して、作業現場におけるカイゼン(改善)活動や見える化、原価管理などに継続的に取り組んできた。また、それらの技術やコストマネジメントに関する勉強会を自発的に実施するなど、OJTとOff-JTの中で人材の成長を促してきた。

 

そうした土壌を生かしながら、まさに今は「人を育てる人」の育成に向けた新たな制度や仕組みを取り入れている段階。その一例が、2019年に導入された等級制度である。職種や職位ごとに期待される技能や役割、責任などが示されており、キャリアアップの道筋が明確になった。さらに、経営企画室の森成徳氏は、「マネジャーとチームメンバーが方向性を合わせながら成長していける制度設計」を特徴として挙げる。

 

「マネジャーは担当チームのメンバーに対して目標設定を行いますが、1カ月半ごとに一緒に達成状況を確認する機会を設けています。また、その際に確認すべきチェックポイントをいくつか設定し、マネジャーとメンバーが定期的に『次の成長課題は何か』『成長するために何をすべきか』といったコミュニケーションの場を持てる制度となっています」(森氏)

 

比較的短いスパンで、マネジャーとチームメンバーが状況や課題を共有することによって、タイムリーなアドバイスや早期の課題発見につながる。メンバーにとっては早い段階で軌道修正できるなどメリットが多いが、マネジャーにとっても「『どうフィードバックするか』『どう方向付けするか』を考える機会になり、良い意味でマネジメントの実地経験の場になる」と森氏はその効果を説明する。

 

 

社会的な要請へ応えることに企業の使命と価値がある

 

収入が不安定で休みが取りにくい農業のイメージとは異なり、サラダボウルは週休2日制や有給休暇制度を整備するほか、月給制や賞与、昇給も制度化するなど、安心して長く働ける環境づくりにも配慮する。

 

「『こうしたら人は育つ』という万能の方法はありません。ただ、育つ確率は体系的な制度によって上げていけると思います。確率を上げるためのアプローチや仕組みをつくることと、成長を支援していくこと。その両方が大切です」(田中氏)

 

現在、開園を発表している農園以外にも、いくつかのプロジェクトが進行中だ。パートナー企業とともに開発するデジタルファーミングの実証試験も進んでおり、大きな成長を予感させる新芽があちこちに生まれ始めている。だが、今後について「数値的な目標は掲げていません。施設数や売上高を目標にすることにあまり意味はないと考えています」と田中氏は話す。

 

「数値的な拡大よりも、社会的な要請に応えられることの方が価値はあると思います。一極集中が進む中、地方に行くほど多くの問題を抱えていますが、地域の社会課題と多面的・密接につながっている農業は、そうした課題を解決する1つの方法になり得ると考えています。それが、当社が各方面からお声掛けいただける理由であり、私たちもそこに使命を感じています。当社が提供する農業が喜ばれたり、頼りにされたりするわけですから、仕事をしていてこれ以上、面白いことはありません」(田中氏)

 

サラダボウルの目標は、あくまで農業を地域の価値ある産業にすること。農業を通して社会課題を解決し、もっと地域を、暮らしを豊かにすることだ。その実現に向けて、サラダボウルは人を育てる真の農業経営者の育成に取り組み続ける。

 

 

サラダボウル 代表取締役 田中 進氏(左)、経営企画室 森 成徳氏(右)

 

 

Column

オンラインプロジェクトで経営理念を明文化

世界中がコロナ禍に見舞われる中、サラダボウルはオンラインプロジェクトを立ち上げた。これまで不文律として浸透していた経営理念を明文化するプロジェクトである。全国各地で働く社員がネット上のワークショップに参加し、ビジョンやバリューの再定義を始めている。

 

人材育成において、いかに経営理念やビジョンを共有し、社員の方向性を合わせるかは土台となる部分だ。今後の社員増加や生産拠点の拡大を見据えて、皆が価値観を共有できるよう、経営理念・ビジョン・バリューの体系化を進めていくという。

 

全社員がグループウエアで発信する毎日の業務日報も、社員同士の交流の場となっている。例えば、業務日報に上がった成功事例を他拠点のメンバーが参考にしたり、新人の仕事の悩みに先輩がアドバイスしたりするなど、技術の水平展開やアイデアの創出・共有、コミュニケーションの場として活性化している。

 

さまざまな分野の良い部分を取り入れるのがサラダボウル流。距離を超えて交流できるデジタルの利点も積極的に取り入れながら、自社の新しいカタチをつくり始めている。

 

 

PROFILE

  • (株)サラダボウル
  • 所在地:山梨県中央市西花輪3684-3
  • 設立:2004年
  • 代表者:代表取締役 田中 進
  • 売上高:12億円(2020年3月期)
  • 従業員数:51名(パート社員含む、2020年3月現在)