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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2021.03.01

水耕栽培にIoTと再生可能エネルギーを活用 グリーンリバーホールディングス

水耕栽培にIoTと再生可能エネルギーを活用 グリーンリバーホールディングス
移動可能で小型の太陽光利用型植物工場を活用したアグリワーケーション施設「Veggie Works」

移動可能で小型の太陽光利用型植物工場である「Veggie」を活用した
アグリワーケーション施設「Veggie Works」

 

 

農業従事者が減り耕作放棄地が増える中、最先端の技術を駆使した「スマート農業」が注目されている。就農のハードルを下げ、未来型農業の実現に挑むグリーンリバーホールディングスの取り組みとは――。

 

 

地元に産業を創出すべく異業種の視点で始めた農業

 

全面ガラス張りのスタイリッシュなコンテナハウス。室内にはバジルが青々と茂っている。このハウスは「太陽光利用型植物工場Veggie」(以降、べジー)。グリーンリバーホールディングス(以降、グリーンリバーHD)代表取締役の長瀬勝義氏が2016年に開発した。

 

ベジーの中には縦型の水耕栽培ラックが並び、潅水・温度調節などの自動化装置、遠隔装置システムなど、最新のIoT技術と独自のノウハウが詰まっている。自動環境を統合制御できるため、年間を通して安定的に作物を生産でき、しかもトレーラーで移動可能だ。「未来型農業」を形にしたこの画期的なハウスは、長い時間をかけて世に出た。

 

長瀬氏は宮崎県都城市出身。大学卒業後、父親が経営する地元の建設会社に入社した。400名規模の会社だったが、当時はバブル経済崩壊の影響で景気が悪く、父は業績管理を担当者に任せきりで経営状況に気付いていなかった。財務担当の長瀬氏は、入社2年目には1人で管理を行うようになっていた。

 

ものづくりが好きだった長瀬氏は、財務の立て直しを行いながら現場を見て回った。JR九州の仕事を受注したころには、父が取り入れた先進的な海外の特殊工法を覚えるだけでなく、営業も行っていた。経営の立て直しにも奔走したが、財務状況は悪化の一途をたどった。

 

そのころ、長瀬氏の気分転換になっていたのが“週末農業”だった。ある時、ふと「地元にはこれといった産業はないとされているが、盆地が多く、都城名物である焼酎の原料となるイモがたくさん収穫・加工されている」と気付いた。そこから、農業を基盤に地場産業を創出できるのではないかという着想で社内起業した。1億5000万円の借金を背負ったものの、社員3名で2010年に新たなスタートを切り、それが現在のグリーンリバーHDの原点となった。

 

 

常識にとらわれない新たな農業の仕組みを開発

 

「起業したものの、グリーンリバーは7年間ほったらかしの状態でした」と長瀬氏は振り返る。父の会社の立て直しを優先した長瀬氏は、全国を飛び回り、大規模な建築土木工事に携わった。それを可能にしていたのは、父の先見の明によって取り入れた海外工法だった。すでに海外メーカーと太いパイプができており、業界内で評判になっていた。

 

転機となったのは2013年の太陽光発電所の造成工事である。当時、メガソーラーという呼び名はまだなかったが、試行錯誤の上、ドイツの先例を参考にしてメガソーラーの施工に取り掛かった。長瀬氏は太陽光パネルを設置する独自の支柱を考案。プラントを作る効率的な工法や機材を組み合わせ、数々の特許を取得した。

 

経営状態が落ち着き、紆余曲折を経てグリーンリバーの事業を始動させたのは2014年だった。建築・土木から農業へ。ベジーの構想は3日間で完成したという。

 

新規事業の原動力は「お金がないから、お金を生み出す方法を考える」というゼロベースの環境だと語る長瀬氏は、「アイデアを形にしてくれる技術を持った人がいるはず」と自ら協力者を探した。こうした地道な努力の結果、資金面や広報面で賛同してくれる専門家とつながっていった。

 

長瀬氏はその後も画期的な製品やシステムを開発した。例えば、縦型水耕栽培装置「3D高密度栽培バイグロウシステム」(以降、バイグロウ)。日本で農業と言えば土耕が常識だったのに対し、米国で盛んに行われている水耕へ目を付けた。

 

一般的な水耕栽培は水平方向に展開しているが、日本には広い土地が少ないため、限られた面積でも栽培できるよう、垂直式の水耕栽培の仕組みを考案した。長さ1.5mの装置にフェルト生地を挟み込んで苗を定植するバイグロウは、場所を取らない上、単位面積当たりの収穫量が土耕栽培の30倍にもなるという特徴がある。栽培しやすいバジルから育て始め、現在は50種類以上の葉物野菜やハーブなどの試験栽培を行っている。

 

パッケージ商品「SMART AGRI FACTORY(スマートアグリファクトリー)」も話題だ。バイグロウやIoT、再生可能エネルギーを掛け合わせた同システムは、ハウス1棟でサッカーコート約2.5面分の収穫量と、作業の効率化が見込める。コストが下がるため短期の投資回収が可能になり、低単価な野菜を作れるという実証モデルが、福岡や沖縄、岩手などで確立されつつある。再生可能エネルギーは太陽光だけではなく、佐賀ではゴミ処理場の排熱とCO2を回収したバイオマス資源、岩手では地熱発電所の排熱を利用している。

 

農業従事者は年々減っているものの、農業に興味を持ち、チャレンジしたいと考える人は少なくない。しかし、初期投資の負担の大きさや農地の確保、栽培のノウハウをつかむのに時間がかかることなどがネックとなる。この課題を解決できるのが同社の製品やシステムだ。

 

ベジーは資材を2年間レンタルできるため初期費用が抑えられ、省スペースで植物を栽培できるバイグロウは施設の屋上など土地を有効利⽤できる。さらに、SMART AGRI FACTORYはグリーンリバーHDから技術指導を受けられる上、作物の生育データや運用状況の分析などの情報を得られる体制が整っており、勘とコツだけに頼らない農業が実現可能である。

 

 

農家ではなく産業をつくる

 

数々の「次世代農業」のスタイルを開発する一方で、「次世代農業は魅力的に映るが、実際は簡単にできるものではない」と長瀬氏は語る。農業指導を行ううちに、自然相手に志の折れてしまう人が少なくなかったことから、農業を広めるためには「人のつくり方」と「終わり方」が課題になると感じたという。

 

「当社の製品やシステムには“事業性のない正義”があります。簡単にお金にはならないけれど、持続可能な社会をつくっていける可能性が高いと考え、人づくりを行っています」(長瀬氏)

 

また、同氏は「参入希望者には『気軽にやめていいですよ』と伝えています」と話す。愛情がなければ農業は営めない。自分で作物を育て、人に教えてきた経験から、その難しさは身に染みている。最先端技術に加え、導入しやすい価格設定や、撤退しやすくするための資材レンタル制度も、次世代農業の名にふさわしい仕組みだ。

 

「農業はあくまでも、人々が自由に自分らしく生きる手段です。作物を作って食べるだけでも、原料にして化粧品を作っても、ECサイトなどで売ってもいい。出口はその人が決めればいいことだし、6次産業化させる道はたくさんあります。私の目的は、農家ではなく産業をつくることですから、1事業ごとの事業性が低くても可能性は無限と捉えています」(長瀬氏)

 

今、長瀬氏のもとには全国の自治体から相談が寄せられているという。代表的な例が、小中学校などの廃校の有効活用だ。「私はまちづくりの専門家ではないのですが」と笑いつつ、長瀬氏は夢を語った。

 

「地方をデザインし直したい。農業ビジネスを主体とした最先端の未来都市『アグリトピア』をつくりたいのです」(長瀬氏)

 

農家として“働く”のではなく、「アグリワーケーション」(仕事と休暇を組み合わせた働き方であるワーケーションに、農業の要素を取り入れたもの)としての農業など、農業とイノベーションの掛け合わせで生まれた未来型農業が地方都市を変えようとしている。「技術革新で人々の幸せを実現する」という自社のミッションの実現に向け、グリーンリバーHDは着実に歩みを進めている。

 

 

グリーンリバーHD 代表取締役 長瀬 勝義氏

グリーンリバーHD 代表取締役 長瀬 勝義氏

 

 

Column

“動く農業”をレンタルでスタート

グリーンリバーHDは合同会社DMM.comとともに、ベジーを用いた約2年間のPoC(Proof of Concept:概念実証)を埼玉県深谷市で開始した。この「深谷PoC」は、移動可能な水耕栽培装置の可能性評価を目的とし、2020年10月に着工、2021年1月より本格始動している。深谷PoCでは、グリーンリバーHD傘下の農業ベンチャーと地元企業に、サブスクリプションサービスでベジーを提供。約2畳のワークスペースを備えた「ワークスタイル」と、全空間を栽培スペースに当てた「ハーベストスタイル」の2タイプがある。初期費用が高く、導入が進まない水耕栽培装置をサブスク化することにより、就農者増の可能性や副業モデルの可能性評価を行う。

 

「コロナ禍の中、リモートワークや副業などの新しい働き方やワーク・ライフ・インテグレーションについても多くの人にPRできる」(長瀬氏)

 

評価性指数達成後はビジネスモデルを全国の自治体に展開する予定で、アグリワーケーションの実現に向けた大きな足掛かりにしたい考えだ。

 

※仕事とプライベートを切り分けて対立するものと捉えず、両方とも充実させるという考え方。「ワーク・ライフ・バランス」に次ぐ新しい考え方として広まってきた

 

 

PROFILE

  • グリーンリバーホールディングス(株)
  • 所在地:福岡県福岡市博多区博多駅前1-4-4 JPR博多8F
  • 設立:2014年
  • 代表者:代表取締役 長瀬 勝義
  • 従業員数:19名(2021年1月現在)