卓越した「育てる仕組み」:ワット・コンサルティング
人材育成に力を入れるワット・コンサルティングの基本姿勢は、ビジョンで示す「個を活かせる企業」にも表れている。人材派遣サービス業は、派遣する人数が多いほど売り上げは上がる。そのため売り上げを重視しがちで、社員の希望や今後のキャリアプランに合わない現場への派遣が増える傾向にある。そうなると社員のモチベーションは下がり、転職という結果につながってしまう。
このような悪循環に陥らず、社員一人一人がキャリアプランを描き、それを実現するためのスキルを磨き、スキルに見合った現場で働けるようになるための配慮は忘れないと水谷氏は続ける。
「当社は技術系の派遣会社に在籍していた者が創業しました。設立した背景には、前社での売り上げ重視の反省点を踏まえ、『売上至上主義』ではなく、社員が成長できる人材派遣サービスを目指したいという思いが強くありました。そのため、建設業界の人手不足という課題を解決しながら、自社員が成長できる仕組みづくりに力を注いでいます」
通常、技術系人材派遣業界では、派遣会社の営業担当者が採用から派遣社員のマネジメントまで携わる。同社もその例に漏れないが、他社と異なるのは、営業担当者が受け持つ社員数だ。同社では上限を30名程度、平均20名程度に抑えて細やかな対応ができるよう配慮している。
また、2019年にはキャリアアドバイザー制度も導入した。社員が営業担当者に派遣先での悩みや自身のキャリアのことで相談しても、営業という立場から売り上げを優先しがちになる。そこで、営業担当者とは別にキャリアアドバイザーに相談できる仕組みをつくり、技術者に寄り添っている。
「キャリアアドバイザーには、管理職経験があり、子育ても経験しているホスピタリティーにあふれた人材を登用しています。キャリアアドバイザーの資格も取得していただき、営業成績に関係ないフラットな立場から、仕事やキャリア形成などの悩みについてアドバイスできる仕組みを構築中です」(水谷氏)
そんな技術者ファーストの同社でも、派遣先のゼネコンなどに転籍することも少なくない。同社としては売り上げ減少につながるが、引き留めることはないという。転籍した元社員の口コミで取引先から派遣依頼が増えたり、当人から派遣を依頼されることもあるからだ。技術者の希望を尊重することで、長い目で見て事業拡大に良い影響を与えている。
ワット・コンサルティングでは多彩な人材が働いているのも大きな特徴である。その代表が建設現場ではまだ数の少ない女性社員だ。派遣社員として現場で働く社員の約4割は女性だという。
「これまでの現場の慢性的な人手不足は、施工管理者の過重労働でなんとか補ってきたのが実情です。しかし、『働き方改革』や安全・健康管理面からも、そうした一部の人たちにしわ寄せがいく働き方では限界がありますし、健全な姿とは言えません。そのため、労働力人口が減少しつつある今、これまで想定していなかった人たちの力を活用するしかありません。
その代表が女性です。もちろん、施工管理の業務全てを女性が担うのは大変です。そこで当社では、『技術サポーター』という女性社員を派遣し、施工図の作成、施工写真、安全衛生書類の作成などを通し、施工管理者の負担を軽減する役割を担っています」(水谷氏)
同様に、同社では海外人材にも目を向ける。現在、同社のグループ会社で海外現地法人のウイルテックベトナムとウイルテックミャンマーで、現地の技術系大学や工科大学と提携し、日本語を教育する活動も実施。日本に入国後は、自社の研修センターで建設に関する知識を学んだ後にゼネコンなどに配属される。
多様な人材を登用し、育成して建設業界に派遣するワット・コンサルティング。今後は、BIM※やIoTといったデジタル施工に対応できる人材育成の強化を図る。
「同時に当社が蓄積してきた研修カリキュラムやe-ラーニングにさらなる磨きをかけ、ゼネコンなどに提供する教育事業にも力を入れるなど、幅広いサービスを視野に入れています」(水谷氏)
リーマン・ショックを契機に人材育成に力を入れてきた同社では、長年にわたるノウハウの蓄積が新しい事業を創出する局面を迎えている。
※Building Information Modeling:コンピューター上に作成した3次元の建物デジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報、施工から維持管理工程などの情報をまとめ、管理・活用するシステム
PROFILE
- (株)ワット・コンサルティング
- 所在地:東京都中央区新川1-11-11 東京冷凍新川ビル4F
- 設立:2003年
- 代表者:代表取締役社長 水谷 辰雄
- 売上高:36億円(2020年3月期)
- 従業員数:705名(2020年3月現在)