卓越した「育てる仕組み」:ワット・コンサルティング
人手不足に悩む建設業界に、自社で教育した人材を派遣するワット・コンサルティング。派遣される社員、取引先、自社が幸せになれる「三方良し」のビジネスで、建設業界の課題を解決する。
技術者の高齢化や人手不足に悩まされてきた建設業界の課題解決の一翼を担うのが、ゼネコンなどに人材を派遣する人材派遣サービス業である。2003年に機電系、翌年には建設系の技術者の派遣サービスを開始したワット・コンサルティングは、中堅の派遣会社として貢献してきた1社だ。現在は製造系アウトソーシングの大手であるウイルテックグループの建設系技術者派遣会社として、スーパーゼネコンをはじめ中堅ゼネコンや設備サブコンなど200社近くの企業に、約600名の人材を派遣する。
同社のサービスは、新卒および第二新卒などの未経験の新入社員に教育を行い、ゼネコンなどに派遣社員として送り出す派遣事業を中心に、自社に登録した人材をゼネコンなどに紹介する人材紹介業も展開している。
「スーパーゼネコン5社(竹中工務店、清水建設、大林組、大成建設、鹿島建設)は別として、どの建設会社も建築学科や土木学科の大学生を採用するのが厳しい状況です。当社では、関連学科の人材を顧客である建設会社と奪い合うのではなく、それ以外の理系や文系に所属する学生を採用しています。そのため、建設の知識がない新入社員に知識を身に付けてもらった上で、現場に派遣するという仕組みを構築しています」
そう採用方針を語るのは、ワット・コンサルティングの代表取締役社長である水谷辰雄氏だ。採用活動では関連学科以外の学生を対象にするため、建設業界の魅力を伝えることが重要になる。そこで同社では、建設業界の将来性、資格取得による職業としての安定性などを学生に伝えることで興味を持ってもらうという。
「微力ながらも、他の業界に進むであろう人材を建設業界に流入させる役割も果たしていると自負しています」(水谷氏)
また、建設業界の知識がない学生を採用し、現場で働いてもらうには、各現場の専門知識を身に付ける必要がある。教育・研修体制が整っていなければ、ゼネコンなどのニーズに合った人材を供給できない。そのため同社は、10年以上も前から人材育成に力を注いできた。きっかけになったのは、2008年のリーマン・ショックだったと水谷氏は続ける。
「リーマン・ショックで仕事がなくなり、約35%の社員が派遣先から戻ってきました。その時の会社経営は苦しかったのですが、雇用調整助成金を活用し、人件費の一部を賄いながらしのぎました。それと同時に、仕事がなく待機している社員が空いている時間に技術や知識を身に付けられるよう、研修に力を注ぎました。その後も研修プログラムを続けたことで、現在の研修センターのベースとなる教育体制を整えることができたのです」
“人”としての力の大切さを知ってもらう
研修カリキュラムを展開しています
現在、ワット・コンサルティングでは東京・大阪・福岡に研修センターを開設し、新入社員に対して326時間、月曜日から金曜日までフルに学んで約2カ月半に及ぶ研修を行っている。他の建設業の派遣会社では多いケースであっても半分の160時間ほどというから、同社の研修がいかに手厚いかが理解できる。研修内容は、基本はCAD(Computer Aided Design:コンピューター利用設計システム)を使用して設計図や施工図を描きながら、施工管理に必要な知識や技術を学ぶというものだ。
専門知識と同様に同社が重視しているのが、派遣先の現場で役立つスキルであり、現場での学び方や問題を解決していく方法を学べるカリキュラムも用意する。
「施工現場では技術もさることながら、一番に問われるのが人間力です。周りといかにコミュニケーションを図り問題を解決していくか、あるいは周りに教えてもらいながら自分で成長していくかというスキルも不可欠。そんな“人”としての力の大切さを知ってもらう研修カリキュラムを展開しています」(水谷氏)
さらに同社では、すでに現場に派遣されている社員のスキルアップのためにも、ゼネコンOBなどの多彩な講師陣が各研修センターで随時研修を開催する。また、2015年にeラーニングをスタートさせ、現在は社員の施工管理技士資格取得のための対策講座から、CADなど実務に関する講座まで、多彩な内容のコンテンツを2000以上も配信している。
自社内で蓄積してきたこのような研修カリキュラムは、社員を派遣する取引先から高い評価を獲得。ゼネコンやサブコンから入社1年目の社員の教育研修を一部受託することで、取引先の若手社員の育成にも寄与している。