パトライト3色信号灯
年間50万本が出荷され、全国のものづくり現場で稼働中のパトライトの3色信号灯。点灯する色の変化で、自動生産機械の稼働状況が現場のオペレーターや作業者にひと目で分かる。IoTツール「AirGRID®」と連動し、究極の「見える化」を実現
ドイツ発の「インダストリー4.0」や「中国製造2025」など、IoTとビッグデータを活用したものづくりの革新が世界中で推進されている中、「安く、早く、簡単に」生産性を向上できる、日本発のシンプルなIoTツールが評価を高めている。現場の「魅せる化」を支援するパトライトが考える、日本のものづくりの課題とは――。
赤は止まれ、黄は安全に注意、青は進んでよし――。交通信号機の3色灯は「見える化」を凝縮した姿だと、パトライト営業本部営業推進課の課長代理・吉原久雄氏は語る。
「いつでもどこでも誰が見ても、すぐに分かり、正しくアクションを起こせる。人間の直感や経験から推測できる、究極に見える化したシンプルな情報です。それをものづくり現場に役立てているのが、私たちの3色信号灯です」
モーターメーカーとして創業したパトライトは、回転灯やパトカーの散光式警光灯の自社開発で成長軌道を描き、3色信号灯では世界トップシェアを誇る。世界中の人に「安心・安全・楽楽」を届ける企業理念の下、幅広い産業分野で生産性向上につながる「見える化」をサポートしている。
最近は、光や音、文字による情報伝達とネットワーク技術を融合したIoTツール「AirGRID®」が注目されている。工作機械など自動生産設備1台に1本取り付けた3色信号灯から、ワイヤレス通信で設備の稼働情報を送受信し、改善に生かすシステムだ。
国内のものづくり現場でいま、期待通りにIoT活用が進まない要因は、使い続ける生産設備にデータ収集のインターフェースがないこと。だが、実はIoT環境を整備しても、投資に見合う費用対効果を得られない企業は少なくない。
「ビッグデータやAIというキーワードが独り歩きし、データさえ収集すれば、分析も課題の改善もできて生産性が上がると思いがちです。しかし、現実には、データが多すぎて相関が複雑になり分析・活用できない、あるいはシステムが高額で、水平展開する予算がないという声も少なくありません。
IoTはあくまでも手段なのに、データ収集が目的になってしまうのです。ボタンを掛け違えた仕組みを作ると現場で使い物にならず、運用に乗りません」(吉原氏)
3色信号灯は、緑は正常稼働、赤は停止中、黄は段取り替えなど、工場ごとにルールを統一して運用。点灯する色の変化で、現場のオペレーターや作業者は自動機の稼働状況がひと目で分かる。
AirGRID®はその「究極に見える化」した動きを、ワイヤレス通信でデータとして収集する。メーカーや機種、年式の違いに関係なく利用でき、50超のITベンダーと連携して多様な現場運用ソフトウエアに対応。本当に必要なデータを集め、分かりやすく改善につなげる仕組みだ。しかも、ビッグデータの活用環境を新たに構築するより「安く、早く、簡単に」できるメリットがある。
「ビッグデータの考え方は、全ての設備、全ての場所の、あらゆるデータを取ること。しかし、使えるデータに加工する処理が生じる上、不要なデータが増え続けるため大規模なストレージが必要です。今ある設備をベースにIoTをうまく活用し、改善につながるインフラができる。データ量は少なく、ノートPCでスムーズに動く。私たちが目指す『楽楽』のシーンが、そこにあります」(吉原氏)
「知らせる」気付き支援から、シンプルで本当に必要なデータを「記録し活用する」現場改善の支援へ。緑・黄・赤のランプの輝きにより、活躍度を高める現場を増やし続けている。
国内だけでなく米国・欧州・東南アジア・中国の世界4極営業体制を構築するパトライト。3色信号灯とAirGRID®によるIoT活用の見える化は海外41カ国に広がり、導入実績は1600件を超える。
「IoTが一時のブームからピークアウトし『3色信号灯のデータで十分だ』というお客さまが増えています。AirGRID®を導入した三田工場(兵庫県三田市)の工場見学では、納得と信頼が高まっています」(吉原氏)
1日の稼働・停止状況などワークの流れや滞りの変化を、時間軸で一覧にする「ガントチャート」。現場の姿がリアルタイムで分かる「アンドンモニター」。3色信号灯の稼働情報をデータ化し、目に見える数字を示すことで、何が問題かに気付き、分析・改善につながる。
また、機器・工程別だけでなく、工場全体や国内外の複数工場など、リアルタイムに稼働データを集計。現場でも工場長室でも、本社からでも一元管理できる。さらに、目視できない距離にある生産設備が止まった場合はスマートウオッチで把握できるなど、さまざまな機能を追加することが可能。データ活用の使い勝手を、自社仕様にカスタマイズできるのが魅力だ。
「チョコ停(一時的トラブル)などの小さなロスがあることを、当然、現場のオペレーターたちは感覚的に分かっています。でもそれがデータになり、数字で顕在化することで初めてアクションにつながるのです。あるお客さまの事例では、毎朝の朝礼で大型モニターに前日のデータを表示し、全員で意見を出し合って、生産性が向上しました。まさに『即改善』ですし、全員で作業の振り返りができるのです」と吉原氏は話す。
正常ではない動きが起きる変化点の情報に焦点を絞り、そのデータが即時、正確に、シンプルに分かれば改善しやすい。また、オペレーターの頭の中にあるチョコ停などの潜在的な現場情報は、データ化により全員で共有でき、より良い改善へと結び付く。
さらに、経営面から見ても貢献度は高い。例えば、生産性が向上すると無理のある勤務シフトや残業、土日の出勤が減り、人件費が軽減されて利益に直結する。また、既存設備が有効活用できているかどうか、ロボット化など新たな設備投資を計画通り回収できているかの指標になり、設備・人材の将来ビジョンや経営判断に役立てることができる。特に、コロナ禍で人手不足や設備投資が難しい中、既存の経営資源で生産性を上げることができるため、重要なツールと言えよう。
「改善の課題は、現場の工程や工場それぞれに違います。だからこそ、自社の現状をデータで知ることが大事です。価値と無駄を顕在化し、価値を最大限に引き出すこと。これはIE(Industrial Engineering)の定義でもあります」(吉原氏)