ばね探訪の内容は同社の広報誌に転載され、取引先に配布される。入念な取材で取引先の事業姿勢を紹介した記事は取引先の評判を呼び、東海バネ工業の営業担当者が訪問すると「いつ、うちをばね探訪で紹介してくれるの?」といった冗談が飛び交うほど浸透しているという。また、掲載された記事を自社の宣伝用に使用したいと取引先から申し出があるなど、顧客との関係性づくりにも大きく寄与してきた。
「お付き合いのあるお客さまに限らず、お付き合いのないお客さまもばね探訪を読むことで、私たちのモノづくりに対する姿勢を感じてもらえているのではないかと考えています。そういう意味では当社のビジネスモデルを伝える役割を果たしていると思います」(夏目氏)
そして、現在、ばね探訪のプロジェクトメンバーは新たな試みに挑戦している。海外の取引先を紹介するためのオンライン取材だ。実は、東海バネ工業は中国、韓国をはじめとしたアジアやヨーロッパなどにも数多くの取引先があり、発電所や天然ガスといった資源開発などの施設で同社のばねが使用されている。その大半は、必要なばねが国内では技術的に製造・調達できないために、同社のコーポレートサイトを探し出したり、海外に進出した日系企業などからのつてを経たりして頼ってくる。そんな拡大する海外顧客のモノづくりの取り組みを紹介するのだ。
「コロナ禍でこれまでのように対面で取材を行えませんから、どうせ行けないのなら海外のお客さまをオンラインで取材させていただこうということになりました。今回は女性社員が中心になって、モノづくりにとどまらず、子育てと仕事の両立をどう工夫しているのかといった点まで取材したいと考えています」(田口氏)
同社では、海外の顧客が増加する中、外国籍の社員が講師になり週2回の英語レッスンを行うなど、若手社員を中心にグローバルなビジネスへの興味が高まっている。そうした社員の意識変化が、ばね探訪にも反映されているのだ。
13年にわたり、オウンドメディアであるばね探訪を展開してきた東海バネ工業。多くの企業で思ったような効果が上げられないとオウンドメディアを休止する中、ここまで長く継続してこられた理由はどこにあるのだろうか?
「ばね探訪を短期的な収益に結び付くメディアとして捉えていません。お客さまと中長期的に信頼関係を高めるためのメディアとして運営してきました。そもそもお客さまと信頼関係を築く源は『自社らしさ』を大切にすることだと思います。そして自社らしさは、社員が自社に対して誇りと自信を持つことで、初めてにじみ出るものです。『モノづくりに対する真摯な姿勢』といった東海バネ工業らしさを、ばね探訪でも表現してきた。それが長く続いている大きな要因ではないでしょうか」(夏目氏)
等身大の自社を見せることで、取引先の共感を得てきたばね探訪は、今後どのような方向に向かうのだろうか。
東海バネ工業の取引先は、ばねの「研究開発」「製造」「メンテナンス」といった、3つのステージで課題解決を望んでいる。そこで今後、同社はばねを提供するステージに合わせた情報を提供していくという。
「具体的には、研究開発に対しては科学的なデータを提供するなどお客さまの新しいばねの開発を支援していく、製造においてはニーズに合わせた迅速な納期、そしてメンテナンスでは古くて図面がないばねでも再現するなど、それぞれのニーズに応えるサービスを提供しています。そんな事例を紹介することで、当社のビジネスモデルを分かりやすい形で紹介したい。もちろん、自社アピールは極力抑えた従来の編集方針を守るのは言うまでもありません」(夏目氏)
ばね一筋に事業展開してきた東海バネ工業は、オウンドメディアに対するスタンスも一切ブレていない。
PROFILE
- 東海バネ工業(株)
- 所在地:大阪府大阪市西区西本町2-3-10 西本町インテス12F
- 設立:1944年
- 代表者:代表取締役 夏目 直一
- 売上高:19億円(2019年12月期)
- 従業員数:82名(2020年9月現在)