原材料や工程にこだわったおいしさと洗練されたデザインで、製菓業界に新風を吹き込むBAKE(ベイク)。ファンとの対話を大切にする同社のオウンドメディア活用策を探った。
THE BAKE MAGAZINE
焼きたてチーズタルト専門店「BAKE CHEESE TART」(ベイクチーズタルト)をはじめ、シュークリーム専門店「CROQUANTCHOU ZAKUZAKU」(クロッカンシューザクザク)、焼きたてカスタードアップルパイ専門店「RINGO」(リンゴ)、バターサンド専門店「PRESS BUTTER SAND」(プレスバターサンド)などを展開するBAKEは、2013年の創業以来、製菓業界に新風を送り込んできた。現在は「1ブランド1プロダクト」を基本方針に9ブランドを展開している。
BAKEのビジネスモデルは、一般的なパティスリーと一線を画す。1ブランドで提供する商品を1種類に絞り込むことにより、原材料を厳選し、おいしさを追求。さらに、作りたての香りなどを体験できる工房一体型の店舗設計や、商品のキービジュアルとパッケージデザイン、店舗デザインの美しさなどが、感度が高く目の肥えた消費者の心を捉えた。
各ブランドでキーカラーが決まっており、いずれも斬新で洗練されたデザインが目を引く。例えば、ガトーショコラ専門店「Chocolaphil」(ショコラフィル)は、食べ物にはあまり使われない「青」が基調。コロンビア産のカカオをふんだんに使った商品のため、「海を渡ってやってくるカカオ」をイメージしている。
店舗数は国内外を合わせて120店舗(国内72店舗、海外48店舗、2020年9月現在)。従業員数は2015年に「スタートアップの壁」といわれる100名を突破し、現在は約1400名と目覚ましい成長を遂げた。
商品ブランドを大切にするBAKEは、ファンとのコミュニケーションも重視。2015年にオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」(ザ・ベイク・マガジン)を開設し、同社の事業や商品づくりに対する姿勢や思いを発信し続けている。
「当社はおいしさの3原則を掲げており、『良い材料を使う』『手間を惜しまない』『最良の状態で提供する』ことを大切にしています。そんな菓子メーカーとしての姿勢を、さまざまなオウンドメディアを通してお客さまに発信しており、その1つがTHE BAKE MAGAZINEです」
そう語るのは、企業広報室室長である真鍋順子氏だ。各ブランドサイトやECサイト(オンラインショップ)、コーポレートサイト、スマートフォンアプリ、SNSといったオンラインのほか、工房一体型の店舗デザイン、商品パッケージやリーフレット、ファンイベント、さらには店舗スタッフまでをオウンドメディアと捉えているという。おいしさの付加価値を「作る・見せる・届ける・伝える」手段の全てを、オンラインかリアルかにかかわらず「オウンドメディア」と定義しているのである。
短期間で急激に成長したBAKEは、自社の歩みを「立ち上げ期」「成長期」「共創期」の3つに分類している。各フェーズでTHE BAKE MAGAZINEが果たす役割も変化した。
スタート時の2015年は立ち上げ期で、企業認知度の向上や人材採用の広報が主な目的だった。そこで、発信力の強い編集長を外部から招き、自社の商品づくりに対する姿勢をPRした。例えば、同社が仕入れる牛乳を生産する牧場を訪問・取材して、ものづくりに対するこだわりをリポートするなど、自社商品の背景にある物語を伝えていった。
こうしたコンテンツと商品でファンの拡大を図っていったBAKEは、2017年に投資ファンドの経営参画体制へ変更し、組織として拡大する成長期を迎えた。人材獲得の必要性が増したり、従業員数の増加によって社内コミュニケーションの活性化が経営課題になったりしたことに伴い、THE BAKE MAGAZINEの果たす役割も変わった。
採用やインナーコミュニケーションを目的としたコンテンツが求められる中、社員がインハウスエディターとして運営し、社内にスポットを当てた記事を増やした。経営体制の変更の背景の紹介や各部門の業務紹介、転職してきた従業員の紹介など、インナーブランディングとしての要素を強めていったのである。
「さらに、複数のブランドを立ち上げ、事業を大きく拡大した2019年以降を共創期と位置付けています。商品がお客さまに届くまでには、社内だけでなく社外パートナーの協力が必要不可欠です。当社の事業がそんなフェーズにあることから、THE BAKE MAGAZINEも『オープンイノベーション』をコンセプトに展開しています」(真鍋氏)
その言葉通り、自社だけでなくスイーツや食関係、あるいは提携先の事業など幅広い話題を取り上げている。BAKEの店舗がテナントとして入っている商業施設や新商品のコラボ先、あるいは栄養食品を開発した起業家なども紹介。それぞれの事業への取り組みや商品開発に対する思いを伝えている。