MAの成果を実証した成功事例は、大企業からスタートアップ企業まで幅広い。例えば、社員数250名の総合物流商社はMarketoの導入後、飛び込み・ルート営業の「御用聞き」スタイルから、Hotな見込み客に営業を絞り込む効率的なスタイルに刷新。顧客の評価も、「用件もないのに顔つなぎで突然来られて迷惑だったのが、良くなった」と上昇し、ウェブコンテンツも拡充して問い合わせ数は15倍、受注率は20%も増えた。
MAツールは、顧客情報や営業ノウハウの属人化問題を解決し、顧客の育成・フォローの組織的な再現性を高めることにも役立つ。歌谷氏は、「手帳に記した情報を自分で抱え込むよりも、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)に入力して共有するほど受注につながります。営業にとってMAのデメリットは少なく、営業体制の効率化にも貢献しています」と語る。
新型コロナ禍で、インサイドセールスの強化にMAを活用する企業も増えている。開催できない展示会をウェブセミナーに、訪問予約が取れないアポイントを電話商談に変える狙いだ。社員数30名のある中小企業では、Marketoでメールマガジンを配信し、反応を得た見込み客へタイミングよく電話商談を展開。通電・受注率も向上し、インサイドセールスを増員する一方で、20名いた外勤営業担当者はロイヤルカスタマー担当1名に減員。交通費で月200万円のコストダウンを実現した。
「経営者の方が『コロナ終息後もやり方を戻す必要がない』と驚いていました。現場のマネジャーからも、『架電件数の量の追求から質(顧客の検討に対する温度感)への配慮を行うようになり、自分のマネジメントスタイルが変わった』とポジティブな声が届きました」(大下氏)
重点を押さえてエンゲージメントへつなげる。進化を続けるマーケティングは、さらにDXでどう姿を変えていくのか。
「Adobe Photoshop(画像加工ソフト)など、アドビのコンテンツやAI技術も搭載するアップデートで、Marketoはさらに魅力的な顧客体験価値を提供できます。一つ一つの施策が、これまで以上に一本筋の通ったビジネスプロセスの姿へつながっていくでしょう」(歌谷氏)
「意思決定のサポートはもちろん、お客さまを見つけることも、どんなコンテンツを配信するかも自動化する未来がやってきます。これまで以上に何をしたいのかという想像力と実行力が重要になりますし、CMO(最高マーケティング責任者)などマーケティングのリーダーも育ってほしいですね」(大下氏)
Column
「見えない怖さ」を「安心」に変える
DXの流れに乗り遅れるな――。アドビへの問い合わせに垣間見えるのは「何かを変えないと」という危機感だ。
顧客行動を分析し購買につなげるプロセス構築は「カスタマージャーニー」と呼ばれる。だが、道標となる地図は絶えず変化し、唯一の正解もない。
「まずは導入する目的や自社の目標、つまり『どの山の頂きを目指すのか』を明確にすること。顧客の目指す山頂と現在地の距離を知り、目指す山頂を定めれば必要な道具が決まり(どのようなツールを選ぶかの選定基準が明確になる)、登頂ルート(やるべき施策)も決まります。私たちも地図を手に伴走します」(大下氏)
「『そのうちに…』と足踏みを続けるお客さまもいます。でも、やらない理由は無限にあるしDXのスピード感は速い。『走りながら考える』ことも大事です。一気に全面展開せず、トップの営業担当者と連携を始める方がうまくいきやすいです」(歌谷氏)
デジタルツールの導入を決める際に「見えない怖さ」を覚える経営者も多いという。だが、デジタルツールはあらゆる結果を数値化し把握できる。「デジタルってそんなに怖くありませんよ」。大下氏の微笑みが、何よりの証しだ。
PROFILE
- アドビ(株)
- 所在地:東京都品川区大崎1-11-2 ゲートシティ大崎 イーストタワー
- 設立:1992年
- 代表者:代表取締役社長 ジェームズ・マクリディ
- 従業員数:600名(2020年9月現在)