オンラインとオフラインの垣根を越えて顧客の行動データを集約し、顧客体験を向上させるアドインテのOMOマーケティングは、大手百貨店・小売チェーンが活用する一方、こうした店に商品を供給するメーカーの利用も増えている。
O2OとOMOの違い
「店舗の近くにいる顧客に対してキャンペーン広告を配信し、購買意欲を刺激することはもちろん、広告を配信した顧客が実際に店舗に行ったかどうかを確認するために活用するメーカーが多いですね」と稲森氏は話す。広告によってどれだけ行動変容が起こったのかを測り、より効果の高い広告手段を見つけるツールとしても利用されているのだ。
「リアルでの行動を知ることで顧客の本当の嗜好が見えてきます。当社のソリューションは、オンライン上の購買履歴や行動履歴だけを分析する従来の方法では不可能だったマーケティングを可能にしました。これは、小売業やブランドメーカーのマーケティングの在り方を大きく変えるインパクトがあると考えています。海外のリテールメディアの活用を見る限り、これからのデジタルマーケティングに必要なデータはオフラインだと確信しています」(稲森氏)
ECビジネスが盛んな米国では、実店舗を保有する小売業が、ECサイトにはない強みを生かした新しいビジネスを展開している。顧客の来店履歴やPOSシステムの購買履歴といった実店舗ならではのデータを分析し、顧客の嗜好や購買特性を推測。その情報をメーカーに提供するリテールメディア事業である。
世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートをはじめ、クローガーやザ・ホーム・デポなどの大手小売チェーンは、自社の店舗で取得した顧客データをメーカーなどに販売するこの事業を、新しい収益源として大きく伸ばしている。体感・体験を通じて商品の良さを伝え、購入につなげる機能としての小売店――。「小売店のメディア化」が急速に進んでいるのだ。
「POSデータは実際の購買に結び付いていますから、メーカーがうまく活用すべき情報だと思います。例えば、あるスーパーで定期的に他社のビールを買う人に自社ビールの広告を配信してブランドチェンジを促すことも可能ですし、その後のブランド定着率なども分析できます。実際に何人がブランドチェンジしたのか、広告の効果測定も可能になります。このように、店舗をメディアとして活用し、オフラインとオンラインのデータを連携することで、効率的なマーケティングやブランディングの手法をメーカーに提供しています」(稲森氏)
2020年6月に、三井物産、新生銀行、グローリー、ヒト・コミュニケーションズ・ホールディングス、丸井グループなどから総額21億2500万円の資金調達を完了したアドインテ。「リアルの空間をウェブと同じレベルで分析し、収益化するOMO」という目標の実現に向け、同社の進化は続いていく。
Column
「コロナ追跡システム」で感染拡大防止に貢献
東京ドームの全4万5000席には、電子タグの付いた小さなシールが貼られている。新型コロナウイルス感染拡大防止策の一つ、「コロナ追跡システム」だ。入場者に自分のスマホで電子タグを読み込んで登録してもらい、感染者が判明すれば濃厚接触の可能性が高い人にメールで注意喚起を行う。
この電子タグ「AITag(エーアイタグ)」は、アドインテの開発製品である。もともとは小売店の棚にある商品と連動して顧客のスマホにクーポンを発行するといった使い方を想定していたが、感染拡大抑制のために用途を変え、アドインテと東京ドームで新たなシステムを共同開発した。
また、同社は「3密」回避のため、球場内の混雑状況を可視化するサービスも公開。リアルタイムの混雑状況の見える化と来場者への告知を行い、安心・安全・快適な環境の実現にも寄与している。
東京ドームの座席に貼り付けられている「AITag」。スマホをかざすと「コロナ追跡システム」に登録できる
PROFILE
- (株)アドインテ
- 所在地:京都府京都市下京区新町通四条下る四条町347-1 CUBE西烏丸7F
- 設立:2009年
- 代表者:代表取締役 十河 慎治
- 従業員数:95名(2020年8月現在)