実店舗における顧客のトラフィック(交通量)をデータ化し、AIで行動特性などを分析。顧客の特性に合ったアプローチをタイムリーに仕掛けるアドインテのソリューションが大きな成果を上げている。
AIBeaconの行動解析イメージ
冬物のニットを購入しようと街を歩いていたら、あるアパレル店から「アプリ会員限定50%OFF!」という情報がスマートフォンに配信されてきた。たまたま近くにいたので店まで足を伸ばし、気に入ったニットを定価の半額で購入した――そんな顧客体験を可能にするサービスがある。O2O(Online to Offline:オンラインからオフラインへの送客)、OMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)分野でデジタルマーケティング事業を展開するアドインテの「AI・デジタルマーケティング・ソリューション」だ。
このソリューションを可能にしたのは、同社開発の「AIBeacon(エーアイビーコン)」。Wi-FiセンサーとiBeacon※が一体となったIoTセンサーで、iBeaconだけでは難しかった「店舗解析」を実現できる。
※低消費電力の近距離無線技術「Bluetooth Low Energy」(BLE)による位置特定技術を利用したセンサー端末
AIBeacon開発の一つのきっかけは、あるクライアントから「デジタル広告を受け取った人のうち何名が来店しているのかを知りたい」という相談を受けたことだった。
「依頼に応えようと、2015年当時、米国で登場していたiBeaconを店内にテスト設置したのですが、うまくいきませんでした。専用アプリをダウンロード済みで、かつBluetooth(ブルートゥース)機能をONにしているスマホしか認識できない仕様になっていて、ごく一部の来店者しか捉えられなかったからです。
そこで、正確な来店比率を測るためにAIBeaconを独自開発しました。『Wi-Fiでも検知可能』『専用アプリ不要』と、従来のBeaconが持つ欠点を解消し、Wi-Fi対応によって計測可能範囲は半径数メートルから最大で約180mになりました。個人情報を取得することなく、匿名のアクセス情報を得ることができます」
こう説明するのは、アドインテ取締役副社長兼COOの稲森学氏である。AIBeaconで取得した顧客の来店回数や来店頻度、店内の回遊経路などのデータは、マイクロソフト社が提供するBIツールでダッシュボード化(複数の情報源からデータを集め、概要を表示する機能)。可視化することによって分析しやすくなり、より戦略的なデジタルマーケティングが可能になった。
ECサイトが拡大したとはいえ、小売業界の購買規模は圧倒的にリアル店舗が大きい。購買活動のほとんどが実店舗で行われ、オンラインショッピングの割合は実店舗に比べるとまだまだ少ない。つまり、オンライン上で顧客の行動データを取得し、さまざまな広告手法を駆使して顧客の嗜好に合ったワン・ツー・ワンマーケティングを展開しても、大部分を占める実店舗のオフラインデータは全く活用されていないのが現状だ。
「AIBeaconで顧客の来店頻度や店舗の回遊経路といったデータを収集・解析することによって、オンライン上では分からなかったリアルでの行動履歴が把握できるようになりました。つまり、より顧客の嗜好に合ったアプローチができるようになったのです」(稲森氏)
百貨店やショッピングモールでは、どの売り場に長く滞在しているかで、顧客の嗜好や興味のある商品群が把握できる。例えば、化粧品売り場に長く滞在している顧客のスマホに新発売の美容液の情報を配信し、売り上げアップや最適なレコメンド(推奨)につなげることも可能になる。
来店客の属性を「高額決済者」「リピーター」などと分類して解析することもできる。属性ごとの行動が分かれば、より購入につながりやすい導線設計にするといった施策も打てる。
さらに同社は、AIBeaconで取得したデータにGPSデータ(位置情報)を組み合わせることで、顧客の属性や地域を推測するソリューション「AIGeo(エーアイジオ)」も提供している。
「スマホユーザーがGPS機能で許可している行動履歴のデータを取得・分析すると、そのユーザーのおおよその属性を推測できます。例えば、夜から朝までは郊外の住宅地にいて、昼間は東京・丸の内にいるようなら、丸の内に勤務している人だろうと分かります。また、昼夜とも一カ所にとどまり、夕方になるとスーパーマーケットのある場所に行くようだったら、主婦である可能性が高い。こうした分析サービスも流通小売各社へ提供しています」(稲森氏)
属性や地域に合った広告展開を行えば収益につながりやすい。加えて、20〜30歳代ならInstagram(インスタグラム)、40〜50歳代ならFacebook(フェイスブック)といったように、その属性の人たちがよく使うSNSアプリへ広告を配信することで効果を高めていくことも可能である。