Zoomストアは新商品が誕生するきっかけにもなった。長さがフェイスタオルの1.5倍、バスタオルと同じ120cmの「シャワータオル」だ。発売初日から、売上枚数で一躍トップになる人気を博している。
「ユニットバスの家に暮らす若い方は、バスタオルを買いたくても置き場所がない。分かっていたことですが、本当なんだとあらためて気付かされました。お客さまの変化を見据えた商品提案が重要なんだと」(池内氏)
「思いを届ける」だけでなく、「生の声を受け止める」機会にもなったリモート接客の可能性は、さらに広がり始めている。6月、新たな試みとしてリモート工場見学会を実施。リアルでは定員40名の募集直後に満席になるが、オンラインの強みを生かして参加枠を拡大し、300名が参加した。
ファンとつながるツールにもなっている。7月には新商品説明会を初めてZoomで開催。心待ちにしていたリピーターが顔をそろえ、双方向のコミュニケーションで交流を深めた。
「工場見学のカメラワークは素人の私たちが行っていたため開始直前につながらなくなるトラブルもありましたが、何とかやり遂げました。アンケート結果も好評で、『オンラインだから参加できた』という方が多かったですね。いろんな声に出合えますし、オンラインと店舗では声の密度も違うので、直営店の営業再開後もリモート接客を続けています」(池内氏)
顧客と一緒に描き出す未来、その不変の企業指針が「2073年(創業120周年)までに赤ちゃんが食べられるタオルを創る」。創業60周年を機にCI(コーポレートアイデンティティー)と社名を変更した2014年、繊維製品の安全認証「エコテックス スタンダード100・クラス1」(赤ちゃんが口に含んでも安全なレベル)を取得し、次なる60年を見据えて掲げた旗印だ。本社近くの母校・乃万小学校でESD(持続可能な開発のための教育)活動を続ける池内氏は、子どもたちが「池内代表、ぼくがちゃんと2073年までにつくってあげるから、安心して!」と言ってくれたことが「すごく、うれしくてね!」と満面の笑顔で語る。
思いと声がつながる人の輪。ニューノーマルはいつも、その先に芽生えるのかもしれない。
リモート接客では
お客さまが使っているタオルを見せていただくこともあります
Column
賢い顧客が見定める「思いの強さ」
お客さまの本気度が高い。情報収集が綿密で、知識が豊富――。BtoCのオンライン接客で、最近よく耳にする声だ。目に見える機能やデザインだけでなく、ものづくりの思想や価値も見定めた上で商品を選択する。その姿は「企業像そのものが、賢い顧客に問われている」とも言える。
「新型コロナ禍以降にそれが顕著になったのも、そうした価値観が重視され、入り口になっているから。自社商品の本当のファンがどれだけいるか、試されている怖さがあります」
そう語る池内氏だが、都市圏の大市場から離れた地域の中小企業にも、距離的な制約がなくなるオンラインにはチャンスがあると指摘する。
「工業製品でも野菜などの農産物でも、ものづくりにとっては、思いを伝えるのにとても良いツールです。お金がかからず投資リスクがありませんし、規模が小さいほど思いが強いもの。やっぱり買っちゃいますよ、思いを持つ人や企業から」(池内氏)
さらに2020年8月から、小さくても思いが強い企業同士が連携する法人向けコミュニティー「イケウチな企業たち。」を新たに始動した。顧客層が重なることも踏まえ、それぞれの思いを一緒に伝えて、人と人の共感の輪を個人レベルだけでなく、企業・社会レベルへも広げていくのが狙いだ。
「支えてくれるファンが喜ばないことは絶対にしないし、目が輝くようなものでなければつくらない。これからも、その方針は揺るがないですね」(池内氏)
PROFILE
- IKEUCHI ORGANIC(株)
- 所在地:愛媛県今治市延喜甲762
- 設立:1969年(創業:1953年)
- 代表者:代表 池内 計司、代表取締役 阿部 哲也
- 売上高:5億円(2020年2月期)
- 従業員数:22名(2020年8月現在)