反響を呼んだ栃木SCのオンライン施策だが、6月の試合再開後は過密スケジュールのため実施されていない。しかし、オンラインの活用については「もっと多くのリソースを投入していきたい」(江藤氏)と推進していく考えだ。
ただ、アフターコロナの社会で求められる施策は、緊急事態宣言下と同じというわけではない。
「オンラインにはオンラインの良さ、リアルにはリアルの良さがありますが、スポーツにおいてオンラインはあくまで補完的な役割。なぜなら、アスリートの魅力が最大限に発揮されるのは、やはりピッチ上だからです。ファンやサポーターが最も熱くなる瞬間は、ピッチに立った選手を応援するとき。その瞬間を十分に楽しんでいただくために、あるいは試合の熱気を維持するために、オンラインを活用していきたい」と江藤氏は話す。
では、リアルを補完するオンラインの活用とは、どのようなものか。江藤氏の念頭にあるのは、著名人や識者、作家などを中心に広がっている会員制オンラインサロンのような仕組みだ。
具体的には、ファンや選手、クラブが定期的に双方向で交流できる会員制の場をつくり、ファンとクラブだけでなく、ファン同士がコミュニケーションを重ねながら、時にはクラブ運営のアイデアを出し合ったり、意見交換したりできるコミュニティーをイメージしているという。将来的には、そのコミュニティーを中心にチームを盛り上げていく形が理想である。
ファンもクラブ運営に参画する――従来型のファンクラブとは一線を画す仕組みだが、もともと栃木SCは地域の選手育成に力を入れるなど、地域密着型のクラブとして発展してきた背景がある。チームが試合で勝利したらサポーターが「栃木県民の歌」を合唱するなど、地域コミュニティーに根ざした存在でもある。
そうした背景やクラブカラーを生かすことも、アフターコロナを見据えた施策を考える上で大事なポイントと言えるだろう。
帝国データバンクによれば、「新型コロナウイルス関連倒産」が全国で累計480件を超えた(2020年9月3日時点)。業種別では、店舗への集客が鍵を握る「飲食店」と「ホテル・旅館」への影響が特に大きく、全体の4分の1を同2業種が占めている。
集客が収益を大きく左右するのは、サッカー界も同じだ。無観客試合や観客数の上限が設けられる中、各クラブはオンラインを含めたさまざまな施策に挑戦しているものの、チケット収入の落ち込みをカバーするほどの成功事例は今のところ見当たらない。
まさに今、アフターコロナの接客やサービスを、多くの企業が模索している。その解決策をオンラインに求める企業は少なくないが、江藤氏は「オンラインは魔法の杖ではない」と言い切る。
「オンラインとリアルには、それぞれメリットとデメリットがあります。目的や顧客の特性に合わせて、両方をうまく組み合わせて活用していただきたいと思います」(江藤氏)
SNSのようなオンラインツールも、目的や顧客の特性によって十分な効果を生まないケースは多々ある。例えば、「アルゴリズムの設計上、FacebookやInstagram、Twitterは接点のない新規顧客に情報が届きにくい」(江藤氏)。業種や商品・サービス、ターゲット層によって違いはあるが、YouTubeやTikTokの方が新規顧客の目に触れやすいなど、オンラインツールにはそれぞれ向き不向きがある。
逆に、「リアルでの施策であっても、デジタル技術によって補完することで成果を上げることは可能」と江藤氏は言う。栃木SCは、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために県をまたぐ移動が制限される中、ホームタウンである宇都宮市を中心に、スタジアムへの誘導を目的とするチラシをポスティングで配布した。その際、チラシにQRコードを貼り付けることにより、キャンペーンへの応募者数やスタジアムの来場者数などをデジタルで測定。チラシの効果を分析し、今後の施策に生かそうと取り組んでいる。
新型新型コロナウイルス終息の兆しはまだ見えていない。しかし、ウェブツールを駆使しながら、今できることに注力していく方針に変わりはない。
「大事なのは、試行錯誤しながら歩みを止めないことです」と江藤氏は力を込める。栃木SCのフィロソフィーは「KEEP MOVING FORWARD(常に前に進み続ける)」。その言葉の通り、栃木SCの挑戦はこれからも続く。
試合の熱気を維持するために、オンラインを活用していきたい
PROFILE
- (株)栃木サッカークラブ
- 所在地:栃木県宇都宮市二番町1-7
- 設立:2006年
- 代表者:代表取締役社長 橋本 大輔
- 売上高:9億6000万円(2019年1月期)
- 従業員数:17名(2020年9月現在)