その他 2020.10.30

オンラインとリアルを組み合わせ、ファンを巻き込むクラブ運営 栃木サッカークラブ

選手とオンラインで交流できる「居酒屋栃木SC」「Zoom交流会」「公式グッズショップZoom支店」――。新型コロナウイルスの感染拡大によってスポーツイベントの中止や延期が相次ぐ中、いち早くオンラインによるイベントや接客を導入した栃木サッカークラブの施策が注目を集めている。

 

 

「グッズを買ってクラブを支援したい」というサポーターの要望を受け、1日店長を務める選手とスタッフが接客するZoomオンラインショップイベントを2020年5月に開催。購入グッズに選手がその場でサインするなど、親近感がわく仕掛けでファンと交流した

 

 

他社に先駆けてオンライン施策を実施

 

コロナ禍の長期化により、幅広い業種において経営への影響が懸念される中、新たな試みで難局を乗り越えようとする動きが各地で広がっている。その先駆けとなる存在が、宇都宮市に本拠地を置くJ2所属の栃木サッカークラブ(以降、栃木SC)だ。

 

緊急事態宣言が発出された2020年4月に、オンライン会議システム「Zoom」を通してサポーターとサッカークラブ関係者が交流する「居酒屋栃木SC」を実施。オンラインショップでの「Zoom接客」や選手主催の「Zoom交流会」の開催、子ども向けのZoomサッカーレッスンなどの施策も相次いで導入し、先進事例として注目を集めた。

 

「居酒屋栃木SCは、SNS上でバズワードになった『Zoom飲み会』から思い付きました。クラブ関係者や選手、サポーターさんでオンライン飲み会ができたら面白いなと。以前から、オンラインでの交流に興味があったのですが、チームサポーターの平均年齢は40代前半。オンラインの活用はまだ早いと感じていました。しかし、コロナ禍によって広く企業でテレワークが導入されたことや、緊急事態宣言発出によって公式戦が中断されるなどオフラインが完全に遮断されたことを受けて、『今、チャレンジすべき』と判断しました」

 

こう語るのは、栃木SC取締役マーケティング戦略部部長の江藤美帆氏だ。居酒屋栃木SCやZoom接客の発案者でもある江藤氏は、米国の大学を卒業後、MicrosoftやGoogleなどのIT企業勤務を経て、日本でITベンチャーを起業。さらに、事業譲渡後に入った広告代理店では、スマートフォンで写真を売買できるアプリ「Snapmart」(スナップマート)を筆頭に、新規事業の企画開発をいくつも手掛けた実績を持つ。

 

江藤氏のアイデアを基に3月中旬から居酒屋栃木SCの検討を重ね、4月7日にはホームページなどで開催を発表。「一番に実施すれば話題になり、プロモーションの効果が高まると考えました」と江藤氏は狙いを説明する。

 

 

ゴールを決めたDF(ディフェンダー)の柳育崇(やなぎやすたか)選手。試合の熱気を肌で感じるのはリアル観戦ならではの魅力だ

 

 

2020年4月に続き、5月に第2回を開催したオンライン交流会「居酒屋栃木SC」。自粛続きの中、参加者20名がオンラインで約2時間のうたげを楽しんだ

 

 

双方向コミュニケーションがオンラインの魅力

 

オンライン施策が成功した秘訣は、スピード感だけではない。リアルでは体験できない選手やクラブとの距離感もポイントとして挙げられる。例えば、オンラインショップのZoom接客では、ショップスタッフ1名と、普段はピッチに立つ選手1名が接客を担当。一人一人の参加者に目が届くよう各回の参加者を10名程度に絞る、購入したユニフォームなどに選手がその場でサインするなど、親近感が沸く仕掛けを盛り込んだ。

 

一方、居酒屋栃木SCは、対象者をファンクラブ会員やシーズンパスポートを持つロイヤルティーの高い層とした。チームやクラブへの関心が高い参加者が集まることで、コミュニケーションの幅が広がり、「普段と違った話が聞けて良かった」といった声が多く寄せられたという。

 

中でも、江藤氏が再確認したのは、ファンの中にある「クラブに貢献したい」という強い気持ちだった。

 

「お酒を飲みながらざっくばらんに話す中で、『試合がないと経営が立ち行かないのではないか?』『外出自粛の中、選手はどのように過ごしているのか?』『今、何に困っているか?』といった質問が挙がり、ファンの皆さんがチームやクラブのことを非常に心配してくださっていることが伝わってきました。これまで表に出ることのなかったクラブの運営について、ファンの方と情報を共有する良い機会になりました」(江藤氏)

 

その効果は、スポンサー企業への営業にも少なからず影響を与えた。コロナ禍によって公式戦が中断されると、スタジアムに掲げられたスポンサー企業名や商品名の露出が大幅に減少。スポンサー離れが懸念されたが、現状を共有したファンが、同クラブや選手がSNS上で紹介したスポンサー企業や商品に関する投稿を、積極的に拡散するようになったのだ。

 

「企業様にスポンサー継続をお願いする大事な時期でしたが、効果の一つとしてTwitterのリツイート数などを提示することができました」と江藤氏は振り返る。ファンがそうした行動を起こすことは想定外だったものの、今後のクラブ運営において貴重な経験となった。