クリエイティブ統括室は、クリエイターの採用と育成、配置も一任されている。分かる人が人材を採用し、ミスマッチを防ぐことが大原則という考え方からだ。
「当社は衣食住やインフラ関連の企業と違い、何をつくるのかが明確ではありません。価値が見いだされていないものに意味付けをし、新しい価値を創出していくことが仕事です。だからこそ、デザイナーもきちんとビジョンを持って経営を考えなければならないということを、もっと浸透させたいと思っています」(井上氏)
同社ではプロダクトをつくるとき、必ず事業責任者とデザイナーの2人1組で取り組む。デザインは製品の形や色といった目に見える部分に施すだけのものではないからだ。
「サービスの場合、見た目のデザインと、デザインによる操作性(使い勝手)はセット。加えて使い心地にもこだわります。使い勝手とは、迷わないとか、簡単にできるとかいうこと。使い心地は、使っていると何だか気持ちが良いといった感覚です。インタラクション(操作に対する反応)など、細かいところにまでこだわってクオリティーを高めています」(佐藤氏)
さらに、井上氏はこう続ける。
「チームビルディングや製品コンセプトといった見えない部分もデザインしていく。また、ビジョンや経営方針をプロダクトにまで落とし込んでいくという部分が、以前とは変わってきたと思います」)
ビジョンも組織も、プロダクトもキャリアも、全てがデザインでつながる。この設計力と実践力こそ、サイバーエージェントが「クリエイティブで勝負する」ための揺るぎない基盤なのだろう。
Column
キャリアは自分でデザインする
サイバーエージェントは人事制度も独創的だ。
「社長の藤田がよく言うのは『経営資源は人である』。だから人材の育成も配置も練りに練って考えます。異動に関しては、新たなキャリアに挑戦したい人を社内公募する『キャリアチャレンジ制度』や、どこの部署にも属さない社内専門のヘッドハンターがフラットな視点で異動をサポートする『社内ヘッドハンター制度』があります。また、技術者は2年に1度FA(フリーエージェント)権を行使でき、自分で異動先を探すことができます」(佐藤氏)
直属の上司は最終決定するまで部下の異動を知らされない。部下を手放したくないと上司が邪魔することを防ぐためだ。
こうした制度の下、チームのマネジャーが異動することもある。その場合は、抜けたチームに他のマネジャーを配置するといった柔軟な対応を行うという。異動した社員が良い成果を上げれば、個人にとっても会社にとってもプラスになる。社内で人材が常に流動的であることによって、組織の力を高める仕組みである。
2019年3月にオフィスを東京・渋谷区宇田川町の「Abema Towers」へ移転。「アベマくん」はビルの要所のみに登場する
PROFILE
- (株)サイバーエージェント
- 所在地:東京都渋谷区宇田川町40-1 Abema Towers
- 設立:1998年
- 代表者:代表取締役社長 藤田 晋
- 売上高:4536億1100万円(連結、2019年9月期)
- 従業員数:5139名(連結、2019年9月現在)