潜在的な市場ニーズを製品化・サービス化する「デザイン経営」:特許庁
この結果から同社が導き出した解決策は、子どもに恐怖感を与えないための「機器の小型化」ではなく、「MRIの検査プロセスを冒険に出掛けるような経験」に転化することだった。病室の壁や医療機器を海賊船に見立て、検査の時間を映画やテーマパークへ行くような楽しい時間に変えることに成功。この解決策により再検査が減り、病院の検査コストも下がった。同社の取り組みが象徴しているのは、イノベーションは技術革新に限らず発想の転換でも起こせること。そこにあるのは、ユーザーと向き合うデザイン思考である。
特許庁のデザイン経営の推進支援策は、「デザイン経営」宣言や事例集の発行、セミナーやイベントへの参加にとどまらない。代表例は2020年4月の「意匠法」の改正だ。これまでの意匠法で権利を保護されていたのは「物品の形状や色彩など」に限られていたが、改正意匠法では画像や建築物、内装などのデザインも保護対象に追加した。つまり、「デザインの力をよりビジネスに生かしやすい環境」を整備したのである。同時に、特許庁内部でも変革を進めている。
「私も所属している『デザイン経営プロジェクトチーム』の設置です。このチームは特許庁をデザイン経営組織化するために生まれたもので、その使命を果たせるように特許庁の審査を全体統括する特許技監直轄のチームとして位置付けています。メンバーはデザイン経営に関心を持った職員。自発的な参加です。彼・彼女らが具体的に特許庁の課題の発見・解決に取り組むことで、デザイン経営に精通するとともに、庁内に対してデザイン経営の有効性を広めています。初めて特許などを申請する人でも分かりやすいように、次のアクションの案内方法の見直しなどを行ってきました」(西垣氏)
デザイン経営を推進する特許庁は、自らもデザイン経営を実施してイノベーションを遂げようとしている。
Column
知的財産の重要性を伝える「商標拳」が人気を呼ぶ
特許庁のデザイン経営組織化を推進する「デザイン経営プロジェクトチーム」では、知的財産の重要性を知ってもらうために、これまでの特許庁では考えられないようなプロモーションを打ち出した。それが動画と特設サイトで構成した「商標拳」※である。同チームがコンセプトを練り、外部に制作を委託。「商標権を知らずにビジネスをすることは経営上の大きなリスク」というメッセージを中小企業に届けることを目指した。
「特許庁は、特許、商標、意匠など、申請を受けてから審査をするので、『待ちの業務』が多い行政機関です。しかし、これからの時代は、職員が能動的に外部へ働き掛けていくことで、各種申請の増加などイノベーションが起こるよう環境づくりにも寄与したい。その取り組みの一環として知的財産の重要性を中小企業の方々にも自分ごととして感じてもらおうと、デザイン経営プロジェクトチームが中心になって『商標拳』の制作を行いました」(西垣氏)
この動画は、YouTubeやTwitterを合わせて約500万回の再生を記録した(2020年7月時点)。
PROFILE
- 特許庁
- 所在地:東京都千代田区霞が関3-4-3
特許庁デザイン経営プロジェクト
https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_consulting.html