その他 2020.08.18

社員が自らの手で紡ぎ出す「未来の仕事」:石坂産業

「ごみ処理」から「資源再生」100%へ――。
地域と自然と共生する「持続可能なプラント」が、 社員の誇りと自社の価値を高め、産業廃棄物処理業の負のイメージも刷新して、「未来へ持続可能なブランド」となったプロセスを追う。

 

 

 

 

仕事を可視化し見学者の評価をモチベーションの源に

 

東京から一番近い町――埼玉県三芳町から半径50km圏内、都心部で排出された産業廃棄物を「ごみから資源へ」再生する石坂産業。リサイクル化率は業界屈指の98%に達するが、満足はしていない。

 

「日本のごみ排出量は年間約4億t。その約20%を占める建設系の廃棄物を100%再資源化するのがわれわれのミッションです」

 

そう語るのは同社専務取締役の石坂知子氏だ。江戸期に三富新田として開墾されたのどかな里山、三芳町に広がる東京ドーム4個分、17万8000m2の広大な本社敷地には、一般的な廃棄物再生処理プラントのイメージとは異なる景色が広がる。緑豊かな「くぬぎの森」が広がり、体験型環境教育フィールドである「三富今昔村」や有機栽培農法の「石坂オーガニックファーム」を併設。関東全域から癒やしを求めて訪れる人が絶えない。

 

だが、同社がその姿になるまで、21世紀初頭から葛藤の日々があった。近隣の所沢で農産物から高濃度ダイオキシンが検出されたとテレビが報じ、後に誤報と分かっても風評被害が続いて、農家や環境団体の矛先が石坂産業に向けられた。

 

「この地に産廃屋はいない方がいい、出ていけと。地域に必要とされ、貢献し、共生できる存在になることの大切さを痛感しました。われわれがその姿勢を見せることから始めようと、ごみの焼却事業から撤退。分別・分級に特化した再資源化事業へと生まれ変わりました」(石坂氏)

 

音や粉塵が漏れず、重機類も屋内に納める「全天候・独立型資源再生プラント」を建設。だが、密室で怪しいとバッシングを受けた。それなら積極的に情報開示しようと、見学通路を開設。ほこりと汗にまみれて廃棄物を選別し、誰もやりたがらない仕事に励む社員の姿を可視化した。また、安全・品質・環境の三つのISO認証を取得し、第三者による評価を経営の柱に位置付けていく。それでも、「必要な存在」と肯定的な評価に変わるまでに十数年の歳月を要した。思いが伝わらない、分かってもらえない――。そんなもどかしさを募らせる社員も数多くいた。

 

「この会社で仕事を続けて大丈夫なのかと不安を感じた社員さんも、見学通路を造るときに『見世物にされたくない』と辞める社員さんもいました。ただ、徐々に見学者から理解や感謝の言葉をいただくようになり、『われわれは必要不可欠なすごい仕事をしているんだ!』と、主体的で前向きなモチベーションと行動が生まれ、相乗効果が表れるようになりました」(石坂氏)

 

見学者の声は、今もリアルタイムにフィードバックされている。その一つが、見学通路の壁一面にメッセージが残る「Green Action(グリーンアクション)ストリート」だ。見学者の大人は青色、子どもは赤色、社員は緑色で、自由に感想や返答を書き込むことができる。社員のやりがいがさらに高まる仕組みである

 

「メッセージも社員さんの受け止め方も、一人一人の違いが分かる貴重な場です。同じ考えばかりでは課題解決につながりません。多様性に富むここから斬新なアイデアが次々と生まれています」(石坂氏)

 

 

夏休みには社員の子ども向けに「家族のお仕事参観日」の職場見学も実施。「家では見せていないかっこいいパパの姿を知って、尊敬してもらえたら。そして将来、当社に入りたいと言ってくれたら、最高にうれしいですね」(石坂氏)

 

 

来訪者に環境や廃棄物処理に対する思いを直接書いてもらう「Green Action ストリート」。「この見学通路からグリーンな世界をつくる行動を世界へ広げる」という願いが込められている

 

 

CI推進の主体的な「考動」プロセス

 

バッシングから共感へ。自ら変わることで一石を投じ、自社の価値と存在感を伝える波を起こした石坂産業は、さらに波を広げていくアウターブランディングへ着手する。その第一歩が2016年、自社の姿勢や取り組みに共感し、同じ志を持つ仲間を増やす新卒採用の開始だ。

 

「2020年春も8名入社し、新卒採用の社員さんが全体の2割を占めています。社会課題の解決や地域貢献への関心が高く、新風を吹き込んで既存社員さんの成長にも良い刺激になっています。当時、われわれの活動を反対されていた方のお子さまが入社したときは、ようやく認めてもらえたかなと感じました」(石坂氏)

 

創業50周年を迎えた2017年にはCI(コーポレート・アイデンティティー)プロジェクトがキックオフ。自社の使命を言語化した「コーポレートスローガン」やビジュアル化したロゴマークを作成した。

 

「東京にある夢の島にごみを捨てるトラックの行列を見て、リサイクルの時代がくると創業者が考えてから50年やってきたこと。『自然と共生する、つぎの暮らしをつくる』を使命に、これから先50年にやるべきこと。両方を物語るスローガンとして、社員さんみんなの心に響いたのが『自然と美しく生きる』でした」(石坂氏)

 

CSV経営の旗印となるスローガンはプロジェクトメンバーが紡ぎ出した言葉だ。「社員さんが納得してこそ次代に伝わる」と石坂氏含め経営陣は一切、口を挟まなかった。その後も、新事業は全てプロジェクト化し、就業時間内に実施。社員が自ら考え、行動する「考動」に一任している。

 

「やらせてみて育てる。そんな企業風土や仕組みに変えたいと思っています。経営が波打つような影響が出ない限りは、やりたいことは全て承諾しています。失敗してもそこから学び、次につなげることができますし、失敗を恐れたり隠そうとしたりする方がリスクは高いです」(石坂氏)

 

考動するプロセスはインナーブランディングそのものだ。さらなる強化へ、ミドルマネジメントを対象に部下の声を積極的に吸い上げる教育もスタート。20~30歳代のリーダー層にも拡大し、風通しの良い企業風土を醸成している。さらに、100年企業になるための将来像を共有し、社員と共に目指していくビジョンブック「未来の仕事」も作成した。

 

「仕事と書いて『じぶん』と読みます。20XX年にどんな未来をつくりたいのか。そのために、あなたはいま何をして、どんなキャリアを積んでいくのか。一人一人の姿を可視化することが目的です。近い将来、地域の方々と共に石坂産業の夢をかなえることが地域創生になる、という『地域版ビジョンブック』もつくりたいと考えています」(石坂氏)

 

 

2017年にコーポレートスローガンとロゴマークを一新。持続可能な社会に向けた研究開発や環境教育に力を入れるという決意を表している