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モデル企業
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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2020.07.31

荷主、着荷主を巻き込んだ生産性向上 流通経済大学 流通情報学部 教授 矢野 裕児氏

効率化に向け発想転換を

 

コロナショックによってビジネスの仕組みやライフスタイルの見直しを迫られる今は、持続可能な物流を考える絶好のタイミングでもある。

 

すでに国土交通省は、トラック輸送における取引の適正化や労働環境の改善に向けて、「改正貨物自動車運送事業法」を2018年12月に公布。2020年4月には、「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃」を告示した。距離や時間ごとの基準運賃が社格別で具体的に示されたほか、待機時間や積み下ろしなどの付帯業務についても、運賃とは別に収受できることが明記されている。

 

ただ、こうした基準が一部の荷主にとって物流コストの上昇につながることは確かだ。その点について懸念の声も上がるが、矢野氏は「標準化や情報の電子化を進めて付帯業務の効率化を図ることで、荷主と物流事業者はWin-Winの関係を築くことができる」と前向きに捉える。

 

「ドライバーの付帯業務を減らすことは、荷主にとって物流コストの削減につながります。また、商品価格には物流コストが含まれていることが多いので、着荷主がドライバーの付帯業務を引き受ければ、取引先(荷主)と共に商品価格を見直すことも可能になる。付帯業務の効率化は、荷主・着荷主・物流事業者それぞれにメリットがあると考えています」(矢野氏)

 

さらに、生産性向上につながると矢野氏が期待を寄せるのが、新たなプレーヤーの登場だ。手荷役が多く業務の効率化が進んでいないのが物流業界の特徴だが、見方を変えれば、少しの変化で大きな効果が得られる有望な市場とも言える。

 

「これまでは既存のプレイヤーが先頭に立ってロジスティクスを変えてきましたが、最近は新しいプレーヤーが新技術によって状況を大きく変える事例が目立つようになっています。課題が多く残されている物流業界は彼らにとって『フロンティア』です。新規プレーヤーの登場で、周回遅れだった業界が一挙に変わる可能性は大いにあると思います」(矢野氏)

 

 

企業をつなぐ物流システムの標準化と情報の電子化が改革の鍵となります

流通経済大学 流通情報学部 教授 矢野 裕児(やの ゆうじ)氏
1957年生まれ。横浜国立大学工学部卒業。日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。日通総合研究所、富士総合研究所、流通経済大学助教授を経て、流通経済大学流通情報学部教授。ロジスティクス・イノベーション推進センター長。工学博士。専門はロジスティクス、物流、流通、都市計画。共著に『物流論(第2版)』『現代ロジスティクス論』(共に中央経済社)など。

 

 

 

Column

コロナショックで露呈した新たなリスク

世界中に広がったコロナショックは、経済面にも大きな打撃を与えた。感染症のリスクを最小限にとどめるためのBCP/BCM策定が求められるが、矢野氏は次のように指摘する。

 

「この10年あまり、企業はチャイナリスクに対応すべくアジア諸国を中心に生産拠点の分散化に努めてきました。しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)は多くの国・地域の経済活動を停止・縮小に追い込んでいます。これまで想定していた代替や分散化といった方法が、うまく機能しない現実があらわになったわけです。

 

自然災害などとコロナショックが大きく異なるのは、被害が一部の業種や地域に限定されず、全世界に影響が出たことです。BCPの観点で言えば、従来の方法では対応が難しいと感じています」(矢野氏)

 

国内では、感染の拡大防止のための全国的な外出自粛によって事業者向けの需要が落ち込む一方、巣ごもり消費の拡大で食品や日用品をはじめ家庭向けの需要が急拡大するなど、物流の需給バランスが大きく崩れる事態が発生した。

 

「需要が落ち込んだ分野のドライバーを不足する分野に回せればよいのですが、国内物流に関しては、そんなに単純ではありません。ドライバー不足が進む中、一時的に需要が減少してもドライバーを確保しておきたいという心理が企業に根強くあるため、すぐにはバランスを取りにくいのです」(矢野氏)

 

新たなウイルスとの共生が求められる中、業界を挙げて「最適なロジスティクスとは何か」について考え直す時期を迎えている。