ローンオフィサー(融資担当者)は顧客がいる村へ出向いて金融サービスを提供。キャッシュレス化・自動化が進んでも対面を重視している
五常・アンド・カンパニーの融資対象は99%以上が女性である。男性は肉体労働や出稼ぎなどの仕事を見つけやすいのに対し、女性の仕事は家事や内職が中心で、なかなか新しい仕事に就きにくいからだ。女性が融資を受けることができれば、地域に伝わる手工芸を事業化したり、新しい農機具を買って生産性を改善したりできる。
「手工芸を行う場合、ミシンを購入できれば生産性は大きく向上します。事業が軌道に乗れば、近所の主婦を集めて小さな工場を作ることも可能です。そうなれば地域経済が活性化して貧困から脱出しやすくなる。同じように、農業でも農機具や設備に投資できれば事業拡大を図れます。
また、女性が経済的に自立すれば家庭内での発言力が増し、家族で話し合いをする機会も増えて、家族にとって正しい答えを導きやすくなります」(慎氏)
多くの開発途上国は経済成長を遂げインフレ傾向にあるため、国や中央銀行の金利が高い。そこに事業コストや収益を上乗せすると、五常・アンド・カンパニーの融資も高金利になりがちだ。しかし、多くの女性が融資を受け、経済的に自立していくためには、できるだけ金利を低く抑えることが不可欠であり、それがマイクロファイナンス機関の使命でもある。
そこで重要になるのがデフォルト率(債務不履行率)と営業コストを下げること。前者はいわゆる「貸し倒れ」を少なくすることであり、同社はこれを0.5%以下に抑えている。日本の消費者金融はもちろん、銀行やその他のマイクロファイナンス機関と比較してもかなり低い。
一般的にマイクロファイナンスの営業コストは融資額の10%を超える。訓練された従業員を雇い、金融機関用のシステムを導入しながら、対面で少額の金融サービスを提供しているためだ。これに対して同社はITやキャッシュレスサービスを活用し、融資手続きの簡略化を図るなどの工夫をして、さらに低金利での融資を実現しようとしている。
五常・アンド・カンパニーの本社は、主に日本の金融機関や企業から投融資を受け、現地法人の資金調達をサポートしている。2020年2月には、クレディセゾンと900万ドルの融資契約に合意するなど、マイクロファイナンス機関の活動に興味を持つ日本企業との取引が増えている。
現地法人の人材育成支援も、本社の重要な役割である。同社の理念に共感した現地スタッフの自主性を生かした運営を心掛けていると慎氏は言う。
「現地法人には『五常』という社名を付けていません。そう名付けることで、『日本に支配されている』という思いを抱く人がいるかもしれないからです。現地法人を設立する際、初めは現地の人々と議論しながら経営方針を決めていきますが、ある程度、時間がたったら、大きな問題がない限り現地スタッフに任せています。大切なのは、こちらの常識を押し付けるのではなく、現地の常識を尊重すること。ただし、常にスピーディーに課題解決を図れる組織にすることだけは譲らずに運営してもらっています」(慎氏)
実は、世界の大手マイクロファイナンス機関には、本社のオペレーションのまま他国へ進出しようとして失敗したところが少なくない。一般人を対象にするリテール金融は、本質的にローカルなビジネスだからだ。現地の文化や風土を理解し、組織やオペレーションの仕組みを構築することが大切なのである。
「すべての人に金融包摂を」をミッションに掲げる五常・アンド・カンパニーは、2030年のゴールに向けて着実に前進している。
PROFILE
- 五常・アンド・カンパニー(株)
- 所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-14-5
- 設立:2014年
- 代表者:代表取締役 慎 泰俊
- 従業員数:3424名(現地法人含む、2020年2月現在)