経理の足腰を鍛え、企業の行く先を示す財務トップの責任と醍醐味:元花王 執行役員 会計財務部門統括、アンリツ 取締役 青木 和義 氏
他にも、青木氏の経験から学ぶべきところは大きい。冒頭の「絶えざる革新」は、その中でも最も示唆に富んだ言葉だろう。
「私自身、若い頃から経理の業務について『こうすればもっと効率化できるのではないか』『便利になる方法が他にあるのではないか』と常に考えながら日々の仕事に当たっていました。配送伝票、倉庫の指示書、発注書に請求書……と、一つの業務でいくつもの紙を発行し、その度に決裁を取るのは無駄が多い。実際に、工場の経理担当を任された時は、いくつもの仕組みを簡略化しました」(青木氏)
当時、全社で導入したらもっと経理業務が効率良くなるのではないかという具体的な手法やアイデアを、青木氏はいくつも思い付いていたそうだ。「その頃は全社に提案できる立場ではありませんでしたが、それらを書きためておいて、管理部長になったあたりから、どんどん実践に投入していきました」と青木氏は話す。
若き日の青木氏は、職務を唯々諾々と務めるだけでなく、ボトムアップで施策を発案していた。現状に満足することなく、常に改善のための視点を持つことが、CFO機能に携わる人材には求められるのだろう。
「もちろん、そう考えているのが財務のトップだけでは、『笛吹けど踊らず』ということになりかねません。財務に携わる全ての人間が、同じ方向を向いていること。ベクトルを合わせていくことが大切だと思います」(青木氏)
そのためには財務トップ、あるいは経営トップによる明確な宣言と、アイデアを提案する社員を評価する体制、教育制度などが大切になってくる。
「教育では、全メンバーに対して勉強の機会を惜しむことなく与えるべきです。定期的な研修はもとより、役割をローテーションしてOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で学びの幅を広げたり、外部コンサルタントと交流したりすることなども効果的でしょう」(青木氏)
EVAなどは経営トップの了解を取りながら進めた革新だが、自らの管理下にある業務はどんどん革新し、創造的に活動・提案できる経理人材を育てる。それも財務のトップたるCFOの力によるところが大きい。
もう一つ、財務が重要視すべきだと青木氏が力を込めるのは、「分析能力」である。
「この数字は何を意味するのか。どうやってこの数字が出てきたのか。この変化の背景には何があったのか。それらを洞察する力、あるいはそこに疑問を持つ力を養うことが大切です。その分析を基にして、いかに組織全体の健全性を保つか、いかにリスクを取っていくかの判断材料をトップへ提供するのが財務の役割です。そのためには、さまざまな理論を習得するとともに、現場で何が起こっているかをつぶさに観察し、検証できる目が必要なのです」(青木氏)
幸いなことにITが普及した現在では、効率的な仕組みづくりが容易になり、必要な情報をタイムリーに入手しやすくなってきている。分析に必要な各種指標の作成も多様なツールが手伝ってくれる。
「ITをどれだけ味方に付けられるかが、財務を強化できるかどうかの分かれ道と言えるでしょう。新しいものを積極的に取り込み、またそのための人材も採用、育成していく。そこは躊躇してはいけません」(青木氏)
自社の財務を強化するために、どのようなシステムを構築すればいいか、そこから目標利益達成のためにどういう活動が必要なのかを考え、進むべき道を提案していく。他社のまねでは意味がない。さまざまな手法・ツールの中から、自社に適したものを選択するのである。
「“財務屋”としてこれほど面白いことはないでしょう」(青木氏)
現場で何が起こっているかをつぶさに観察し、検証できる目が必要です