もっとも中野氏は、ロボットは実用性の面では発展途上だと認める。
「100回に1回の失敗は、成功率でいうと99%です。しかし、これを飲食店の業務に置き換えると、1日に2杯はドリンクを落とす確率で、とても使えるものではありません。1000杯に1杯だと10日に1回の確率ですが、それでも疑問符が付く。1万杯のうち1杯を落とすくらいで、ようやく実用的になる。これを人間が使っている設備や環境で実現するのは本当に難しく、試行錯誤の連続です」(中野氏)
現状、バーテンダーロボットは人と腕が当たらないカウンター内から動くことはない。リキュールやサーバーはもちろん、カップの位置も固定されていて取り間違えがない工夫も施されている。ある程度サービスの精度やスピードは向上しているが、人に迫るところまで性能を引き上げるのはかなり難しく、まだまだ道のりは遠いという。センサーなどのデバイス開発も進んでいるが、まだ求めるレベルには達していない。
「皿洗いロボットができたとしても、泡の中にアームを突っ込んでどんな形のお皿か判別することは絶対にできません。それだけ人間の感覚と知能は優れているわけです。ロボットがこの域まで到達するには、まだ何十年もかかるでしょう」(中野氏)
もっとも、技術だけでなく、消防法や食品衛生法など法制面の整備も急ぐ必要がある。
「火事が起こったとき、ウエーターロボットの電池が切れて脱出通路を塞いでしまったら、誰の責任になるのか。レストランの通路は避難路として消防法により幅が決まっていますが、これからもその幅でいいのか。スタッフとお客さまという人間しかいない前提で作られている法律を見直し、ロボットが受け入れられる土壌をつくっていく必要があります」(中野氏)
課題は多いが、ロボット技術が人手不足解消の切り札となることは確か。サービスロボットの今後の動向に注視が必要だ。
コミュニケーションが取れるというのは、
ロボットと機械を分ける重要な基準です
Column
顧客とのやりとりで成長する“カフェロボット”
QBIT Roboticsは、UCC上島珈琲(兵庫県神戸市)と共同でカフェロボットの受注販売も行っている。東京・渋谷にある「変なカフェ」では、2018年からカフェロボットのTom(トム)が働いており、プチ名所にもなっている。また、関西では、阪神電鉄の西宮駅に隣接する「エビスタ西宮」内のフードホールで2019年11月から3カ月間、カフェロボットの実証試験が行われた。
調理器具やカウンターなど、必要な設備が全て一体となったシステムのため、設備を設置すれば数時間で開店が可能となる。エビスタ西宮を運営する阪急阪神グループも、遊休スペースを素早く活用できる点に着目したという。いずれのロボットも、カメラで顧客の年齢、性別、表情を認識し、どう話し掛ければ顧客が笑顔になるかを学習して、接客がうまくなっていく。
「お客さまが遠巻きにロボットを見ていると、『もう少し前に来てくれませんか』とロボットが話し掛けるのですが、皆さん素直に聞いてくださる。ロボットに対してお客さまは優しく、サービスロボットの成長を後押ししてくれていると感じます」(中野氏)
Cave de Terre(カーブ ド テール)エビスタ西宮店
PROFILE
- ㈱QBIT Robotics
- 所在地:東京都千代田区平河町1-6-8 平河町貝坂ビル3F
- 設立:2018年
- 代表者:代表取締役社長 兼 CEO 中野 浩也
- 従業員数:19名(2020年3月現在)