その他 2020.04.30

料理やドリンクを作るサービスロボット:キュービット・ロボティクス

慢性的な人手不足に苦しむ飲食業界で、料理やドリンクを作るサービスロボットが話題を呼んでいる。人が使っているものをそのまま使いこなす器用さを携え、業界に広く浸透を目指す。

 

 

ロボット店長

POINT①:居酒屋におけるロボット運用の実証を実験
POINT②:キュービット社のロボットに共通するのは、いずれも1本の腕で器用に料理やドリンクを作ること
POINT③:カメラと連動し、顧客を認識。AIを用い適切な発話や動作の対応が行えるため、接客や集客などにも活用できる
POINT④:ロボット店長は顧客に合わせて話し掛けることもでき、その表情がモニターに映し出される

 

 

居酒屋に現れた「一風変わった店長」

 

「いらっしゃいませ」

 

「もう一杯飲んでいきませんか」

 

訪れた客に話し掛け、製氷機から氷を取りカップに入れる。ボトルからリキュール、サーバーからソーダを注ぎ、マドラーで混ぜて客に提供する。こう書くと、バーテンダーの所作のようだが、カウンターの中にいるのは人間ではなくロボット。金属製のアームを器用に伸縮させながら、次々とドリンクを作っていく。

 

これは、養老乃瀧(東京都豊島区)グループが展開する「一軒め酒場」池袋南口店内に開設された「ゼロ軒めロボ酒場」の様子だ。居酒屋におけるロボット運用の実証実験として、外食大手の養老乃瀧とロボティクス・サービス・プロバイダーであるQBIT Robotics(キュービット・ロボティクス)が共同で仕掛けたもので、実証実験を開始した2020年1月23日〜3月19日までの約2カ月間で、1日に平均50杯を売り上げた。予想を超える成功だった。

 

「人手不足の解消はもちろん、このロボットがネットワークにつながり情報処理によって自動でリキュールや水を補充できるようになれば、飲食業界にとって大きな革新になる。可能性は無限に広がっています」

 

QBIT Robotics代表取締役社長兼CEOの中野浩也氏は、そう目を輝かせる。

 

「ロボティクス・サービス・プロバイダー」と名乗る同社は、2018年1月に設立したベンチャー企業。これまで製造現場で使用されていた作業用ロボットにコミュニケーション機能を持たせ、実際に働きながらコミュニケーションも行うロボットに改良して、ビジネスとして成り立つ形を目指している。単なるロボットメーカーやロボットシステムインテグレーターとは異なる事業であるという自負だ。これまでにも、ロボットカフェやパスタロボなど、飲食の現場で働くロボットをリリースしており、サービスロボットの可能性を世に問うてきた。

 

「日本はロボットに強いと言われていますが、それは産業用ロボットの話。市場性はサービスロボットの方がはるかに大きく、この分野で日本は遅れています」と中野氏は日本の立ち遅れを指摘する。

 

中野氏の前職はテーマパーク事業を主に手掛けるハウステンボス(長崎県佐世保市)。情報システム部門の責任者として、ロボットシェフがお好み焼きを作る「変なレストラン」や、ロボットがフロント業務を務める「変なホテル」の立ち上げに携わった。当時からユニークなアイデアは際立っていたが、QBIT Roboticsの社長に就任してからは、サービスロボットの普及にまい進している。

 

同社のロボットに共通するのは、いずれも1本の腕で器用に料理やドリンクを作ること。アームで扱う道具はシェフやバーテンダーが普段から使っているもので、そこが人とロボット協働への第一歩になる。

 

※ ロボットを導入しようとする企業に対し、ロボットの活用を幅広くサポートする事業者

 

 

 

 

 

 

サービスロボットが果たす役割は
「自動販売機以上、人以下」

 

「ビールサーバーやカフェマシンなど、人が使っている設備や環境を変えずにロボットがどれだけ動かせるか。当社が狙っているのはそこです」(中野氏)

 

専用のサーバーやマシンをそろえ、厨房ごと、あるいは店ごとロボット化するのは、ある意味で簡単だと中野氏は言う。例えば、製造工場における産業用ロボットはスムーズに動ける環境が整備されている。だが、それではシステムが複雑になり、故障箇所が増える上に投資も膨大になる。人との協働も難しい。

 

「産業用ロボットが動く現場は、アームを振り回してもぶつかる人はいないし、取り付ける部品も自動的に供給されます。作った物も自動で運ばれていく。しかし、飲食店でそんな環境は望むべくもありません。人にぶつかる前に安全停止し、人に代わって仕事ができる。そのためにロボットに何が求められるのか、知恵を絞っています」(中野氏)

 

もう一つの特徴は顔だ。アームの脇にはモニターが取り付けられ、極端に記号化された顔が表示される。目と、鼻か口か判別できない点が描かれただけで、イラストレーターの力を借りれば、もう少し表現力のある顔が作れそうだ。だが、この記号化された顔にこそ意味があると中野氏は力説する。

 

「これまでの経験から、人は機械に顔を付けるだけでコミュニケーションを取れる相手だと考えることが分かってきました。コミュニケーションが取れるというのは、ロボットと機械を分ける重要な基準です。カフェロボットと、コーヒーを抽出する自動販売機の違いは何かと聞かれたら、そこです。もちろん、現実に近い顔を表示させることもできます。しかし、余計な情報量が増えてしまう。いわゆる『キャラ』が立ってしまって、好き嫌いが出てくるでしょう。サービスロボットを普及させたい私たちにとっては、むしろ逆効果なのです」(中野氏)

 

将来的にも、アンドロイドのような人型ロボットを作ることは考えていないと言い切る。あくまでロボットは実用性、合理性に特化すべきというのが中野氏の考えだ。

 

「ロボットは人に取って代われるものではありません。ロボットと人のおもてなしは、明らかに質の違いがある。『自動販売機以上、人以下』という境界を追求していきたい」と、ロボットと人の協働への理想像を描く。