大手企業からベンチャー企業へ人材をレンタル移籍。他社での経験がゼロから1を生み出す:ローンディール
人材をベンチャー企業へ一時的に出向させ、実践的な経験を積ませる「レンタル移籍」を提供するローンディール。イノベーションを起こせる人材や、組織に変革を起こすことができる次世代リーダーの育成を目的に、さまざまな業界の大手企業30社以上が活用している。
LoanDEAL(ローンディール)
人材をベンチャー企業の事業開発に参加させ育成する
「レンタル移籍」とは、サッカーなどのプロスポーツにおいて選手が現在所属しているクラブとの契約を保持したまま、期間を定めて他のクラブへ移籍する制度のこと。このユニークな仕組みを企業間で取り入れる「企業間レンタル移籍プラットフォームLoanDEAL(ローンディール)」を運営するのが、原田未来氏が代表取締役を務めるローンディールである。
「当社を立ち上げた原田が自身の経験をヒントに生んだサービスです。原田は大学卒業後に新卒で創業期のベンチャー企業に就職し、株式上場に貢献。新規事業を任されるまでになりました。しかし、『この会社しか知らないままでいいのか』『自分が他社でどの程度通用するのか』といった思いが強くなり、13年間勤務した会社を思い切って辞め転職しました。しかし、外に出てみると会社の良さや改善点が見えてきたのです。そこで、転職せずに外を見る機会をつくれば社会も会社も個人もより良くなると考えたのが、当社設立のきっかけでした」
ローンディールの最高執行責任者である後藤幸起氏は創業の背景をそう説明する。LoanDEALは、半年から1年程度の間、大手企業などの人材をスタートアップ企業へ派遣し、事業立ち上げの経験を積んで自社に戻す人材育成サービスである。利用料はレンタル移籍者を送り出す大企業と受け入れるベンチャー企業の双方が負担。毎月1人当たり20万円(税抜き)をローンディールに支払い、レンタル移籍者の給与は大企業側が持つ仕組みだ。レンタル移籍する社員の年齢は20歳代後半から50歳代と幅広いが、ある程度のキャリアがあり、柔軟性を持ち合わせた30歳代前半が多いという。
現在、原田氏が当初に思い描いた開発コンセプト通り、大手企業の社員がベンチャー企業で働くことで、自分を見つめ直したり、仕事の進め方を考え直したりする意識改革や、企業内での新事業創出や組織改革を起こすスキルを磨く手段として利用されている。
また、レンタル移籍が実現する人材育成とイノベーションのエコシステム構築において、2018年度の第1回日本オープンイノベーション大賞選考委員会特別賞を受賞。企業のマッチングだけでなく、メンターがレンタル移籍者に伴走して成長を支援する仕組み※も高く評価された。
※ローンディールのメンターがマンツーマンで相談に乗りアドバイスを行う。このフォローは移籍中から復職後3カ月まで継続される
ローンディールフォーラム
大企業からベンチャー企業へのレンタル移籍期間は6カ月から12カ月。移籍者はベンチャー企業で、フルタイムで働くことになる。マインドセットや育成には最低でも半年、できるなら1年は必要という認識から、ローンディールは1年間のレンタル移籍を推奨している。
これまでにLoanDEALで社員のレンタル移籍をした大企業には、パナソニック、経済産業省、オリエンタルランド、西日本電信電話、日本郵便などが名を連ねる。一方、受け入れ先のベンチャー企業は約300社に上り、AIなど先端技術開発に挑むIT系から航空・宇宙、教育、農業など幅広い業界に及ぶ。
では、大企業の社員とベンチャー企業をどのようにマッチングさせているのだろうか。
「当社の担当者が直接お会いして個別面談を行っています。レンタル移籍先の決め方については、社員を移籍させる企業の狙いもあるのですが、基本的には本人の意思を何よりも大切にしています。社命だから従うという消極的な姿勢では、移籍しても良い結果が望めません。本人がどんな思いを抱いてベンチャー企業で働きたいのかをヒアリングしながら移籍先を絞っていきます」(後藤氏)
移籍先の絞り込みで特筆すべきことは、LoanDEALのアドバイスの在り方だ。レンタル移籍を希望する大企業は、多くが自社の事業と類似する業種のベンチャー企業を選ぶ傾向にある。しかし、LoanDEALは移籍先をできるだけ現在の業務と関連性のない、異なる文化を持つ企業を推奨している。
例えば、数千万円の製品を製造・販売する企業から1ダウンロード当たり数百円のアプリを開発するビジネスを立ち上げたベンチャーへ、あるいは技術シーズ※でものづくりをしていた企業からより顧客の近くでサービスを展開する企業への移籍など、180度違う環境に身を置くことで、人は新たな気付きを得ることができるという。
※研究開発や新規事業創出を推進する上で必要となる発明(技術)や能力、人材、設備などのこと