その他 2020.03.31

斬新すぎるITエンジニア養成機関:42 Tokyo

問題解決型学習&ピアラーニングのイメージ

出所:42 Tokyo

 

 

生徒同士が学び合うピアラーニングで腕を磨く

 

もう一つ、42が大切にしていることが「コードレビュー」だ。コードレビューとは、「作成したプログラムを動かすための設計図であるソースコードを、他者が見ることで問題のある記法やバグがないかを確認する」ことを指す。これは、プログラムの質を高めるために必要不可欠な工程だ。

 

42は出題ごとに必ずコードレビューを行う。コード作成者とは別の学生が、実際にプログラムが動くかを確認し、そのプロセスを作成者に伝えることを義務付けている。

 

「お互いにコードを見せ合うのですが、組み合わせもシステムでランダムにマッチングさせます。プログラミング経験のない者同士になる場合もあれば、プログラミング経験者と未経験者がレビューをすることもあります。相手の知識レベルによって説明の仕方も変わりますし、言葉の選び方も違うはずです。専門用語で伝わらない相手だと平易な言葉を使い、相手に分かりやすく説明しなければなりません。実は、こうしたコミュニケーションはITエンジニアが仕事をする時、日常的に行われていることです。そういう意味でも42での学び方は、ITエンジニアのライフスタイルを学ぶことなのです」(長谷川氏)

 

これこそ42が重視する、生徒同士の学び合いによるピアラーニングの実践である。コードレビューを繰り返し行うことで、互いに学ぶことを知るとともに、相手に伝える力や相手を理解する力など、コミュニケーション力を養うことにつながる。

 

入学試験期間中、ツイッター上ではハッシュタグ「#42Tokyo」が立った。そこでは試験に参加した人のつぶやきを数多く見ることができる。「めっちゃ頭が疲れた」「最後までなんとか頑張る」といったコメントもあり、かなりハードな試験であることがうかがえる。一方で、「コードレビューが楽しい!」「人それぞれの考え方が分かり勉強になる」といったつぶやきもあり、ピアラーニングの学び方に共感する書き込みも多い。

 

 

誰でもエンジニアを目指せる「42文化」を定着させたい

 

開校後、どのような流れでITエンジニアを育成するのだろうか。その前に、42のもう一つの特徴を知っておく必要がある。実は、42には「卒業」という概念がない。生徒自身が「42で何を学ぶのか」というゴールを設定し、それが達成できたと自分で判断すれば、やめて構わない。

 

「42は学位取得よりも、実践力を養う機関として位置付けています。ですから、自分が身に付けたいスキルを獲得したら社会に出るわけです。当然、一人一人のゴール設定は異なるでしょうから、まずはプログラミングの基本を学び、その後はネットワーク、マシンラーニングやデータサイエンスなど、生徒が進みたい分野を選べるようにしています」(長谷川氏)

 

ベーシックなカリキュラムは全世界の42で共通だが、専門的なカリキュラムは各校が独自に開発することもある。また、各地域の特性も反映される。例えば、米シリコンバレー校は、グーグルやアップルなどIT企業が地元に本社を構えることから、情報科学・統計学・アルゴリズムといったデータサイエンスに力を入れるなど、地域の産業特性が反映される。

 

このように自分が学びたい分野、どのようなスキルを身に付けたいのか、といった明確な目標を定めて42で学ぶ。当然、人によってスキルの上達スピードは異なるが、プログラミングの基本を学ぶには、半年から1年程度の期間があれば十分。さらに専門性を深めたければ2年程度が一つの目安だという。

 

「従来の大学や専門学校を否定するつもりはありませんが、ITエンジニアを目指す高校生にとっては、従来の大学や専門学校だけでなく、42 Tokyoという新しい選択肢が増えたことは間違いありません。今後は、“42文化”が日本に根付くように努力していきたいですね」(長谷川氏)

 

開校してすでに7年が経過したパリ本校は、GAFAやマイクロソフトなどに人材を送り出している。少子化と人口減で優秀なITエンジニア人材の育成が難しくなっている日本で、誰にも平等に門戸を開く42 Tokyoの果たす役割は大きい。同校がどのようなIT人材を輩出していくのか、今後の動向に注目が集まる。

 

 

42 Tokyo事務局長(兼DMM.comディレクター)の長谷川文二郎氏
背後には42 Tokyoの主な参加表明企業一覧が。ITから電機、エネルギー、出版社まで多種多様な企業が見える

 

 

PROFILE

  • 一般社団法人 42 Tokyo
  • 所在地:東京都港区六本木3-2-1 住友不動産六本木グランドタワー24F
  • 設立:2019年
  • 代表理事:亀山 敬司
  • スタッフ数:6名(2020年2月現在)