その他 2020.03.31

斬新すぎるITエンジニア養成機関:42 Tokyo

AI、IoT、5G――社会のデジタル化が加速する中、ITエンジニアの需要が急増している。2020年春、そんな引く手あまたのエンジニアを、従来の常識を覆す方法で育てる画期的な養成機関が開校する。

 

 

 

 

誰もが平等に挑戦できる教育の機会を提供する

 

広々としたフロアに、アップルのパソコン「iMac(アイマック)」311台が並ぶ。それぞれの前には、一心不乱にインターネットで何かを検索している若者や、数人が集まって意見交換をする姿が。

 

ここは東京・六本木のDMM.com(ディーエムエム・ドット・コム)が本社を構える高層ビルの一室。ただ、同社のオフィスではない。2020年4月以降に開校予定の「42 Tokyo」と呼ばれるITエンジニア養成機関の教室だ。2019年11月に第1期生の募集を始め、2020年1月から入学試験「Piscine(ピシン)」が行われた。

 

「42」はフランス発のITエンジニア養成機関で、同国の実業家が誰でもITを学べる学校が必要との思いから、私財を投じて2013年にパリで開校(42本校)した。その後、2016年に米国のシリコンバレー校が開校し、現在は姉妹校も合わせると世界各地に15校が誕生している。卒業生はGAFAやIBM、ウーバー、Airbnb(エアビーアンドビー)、ルイ・ヴィトンなど各界で活躍中だ。

 

42の特徴は、「誰もが平等に挑戦できる教育の機会の提供」と「実践的で世界に通用する教育システム」が挙げられる。具体的には、学費完全無料、教室は24時間365日開放され、年齢・学歴・経歴・性別に関係なく平等に教育を受けられる。つまり、意欲さえあれば誰でもチャレンジできる権利が与えられる。

 

また、独自に開発したカリキュラムを導入し、授業も教師が学生に教えるという一方向的なものでなく、学生同士が学び合う「ピアラーニング」という方法を用いる。世界でも屈指の学歴社会、かつ移民問題も抱えるフランスでは、42の「学歴不問」と「学費完全無料」が大きな話題を呼んだ。

 

非営利型スクールの42 Tokyoを設立したDMM.comは、なぜ、この事業に参画したのだろうか。

 

「当社会長の亀山敬司が、42の理念である『誰にも平等に挑戦できる』という考え方に賛同したのがきっかけです。DMM.comでも、授業料が一切なく、給料を得ながらベンチャービジネスのノウハウや多様な考え方を知る『DMM アカデミー』という場を提供しています。卒業後は当社に入社しなければならないという制約もありません。そんな取り組みもあって42の理念に賛同して手を挙げたわけです。しかし、誰にでも開かれた学校である以上、ニュートラルな立場であることが望ましいので、一般社団法人を立ち上げて開校しました」

 

そう説明するのは、42 Tokyo事務局長を務める長谷川文二郎氏である。この長谷川氏もDMMアカデミーで学んだ一人だ。卒業してDMM.comに入社。その後、42の存在を知り、理念に共感してパリ本校で学んだ経験を持つ。

 

※フランス語で「スイミングプール」を指し、“溺れずに泳ぎきれるか”を試す含意がある

 

 

 

 

エンジニアの学び方を習得
独自の「問題解決型学習」

 

42 Tokyoは、青少年保護育成条例に配慮して入学資格を18歳以上に制限しているが、その他は海外の42と同様、学歴や性別、エンジニア経験の有無に関係なく入学試験を受けられる。初年度の入学試験では、大学生を中心とした若者から50歳代まで、プログラミングの経験がない人も多く受験するなど、その幅の広さから関心の高さがうかがい知れる。

 

42 Tokyoは企業の協賛金で運営され、マイクロソフトやグーグル、楽天、メルカリなどIT企業をはじめ、三菱重工、パナソニック、大阪ガス、日本航空、キリンなど多様な業種の企業が参加を表明している。各社は協賛金をはじめ教材や機器類(キーボードやマウスなど)を提供。自社の人材育成の一環として参画する企業もあれば、オープンイノベーションにつなげる狙いで参画する企業もあり、その思惑はさまざまだという。

 

では、42 Tokyoはどのような方法でエンジニアを養成するのだろうか。42が独自に開発したカリキュラム(教育課程)のため具体的なシラバス(授業計画)は非公開だが、エンジニアとしての学び方自体が学べる教育スタイルであり、最終的にエンジニアのライフスタイルが身に付く仕組みになっている。それを端的に表すのが入学試験の出題である。

 

「42で実践するのは問題解決型学習です。例えば、入学試験では『○○○を作れ』とだけ出題し、それ以外には何も指示しません。プログラミング未経験者は○○○の意味さえ分からないことが多い。そこで○○○の意味をインターネットで調べて、出題文の意味を探ることから始めます。一般的なビジネスシーンで例えれば、エクセルを使ったことがない新卒社員が、上司から『エクセルでこの統計をまとめてほしい』と言われた状態と同じ。でも、分からないなりにもエクセルを検索して、どんなソフトなのかを把握する。次に『計算』というキーワードで表計算の使い方を知るといった感じで、自ら学んでエクセルで計算して、統計データを作るプロセスと同じことを入学試験で行っています。そんな出題がズラリと並んでいるので、受験者はコツコツと解いていくわけです」(長谷川氏)

 

つまり、入学試験によって学習の仕方を学ぶことになる。入学試験の期間はなんと4週間も続く。当然、一つずつ解答していくにはタフさも問われる。そんな地道に努力する姿勢も自然と身に付くようになっているのだ。入学試験を通じ、ITエンジニアとしての学ぶ姿勢を学べることも、42の特徴と言えるだろう。