佐川氏は、長く教員として教育現場で働き、いわき市の教育委員会の教育部次長などを歴任した。同市では2011年の東日本大震災後の復興の一環として「創造的復興教育」を掲げ、そのときに支援したのがJA Japanだった。JA Japanとカタールの「カタールフレンド基金」によって「いわき市体験型経済教育施設Elem(エリム)」を建設。同施設内でスチューデント・シティやファイナンス・パークを実施している。
このプロジェクトの中心メンバーとして関わった佐川氏は、JAのプログラムに大きな可能性を感じ、JA Japanの活動に参加したという。
「それまで学校の掃除をしなかった子どもが、プログラム体験後に率先してするようになった。つまり、職場ではみんなが協力することで仕事が成り立っていることを体感して意識が変わったのです。その姿を見た時に、JAのプログラムが子どもに与える影響の大きさを実感し、この活動を全国に広めようと教育委員会を退職してJA Japanに参加しました」(佐川氏)
品川区では、スチューデント・シティの運営にはJA Japanや企業、教師のほか保護者もボランティアとして参加しており、「見違えるように成長した子どもの姿にびっくりした」との声が保護者から多く寄せられている。
ジュニア・アチーブメントの教育プログラム
スチューデント・シティ
小学生向けプログラム
本物の街を再現し、物やサービスを「供給する側」と「受ける側」を交互に体験
わたしたちのまち
小学生向けプログラム
「仕事とまちの成り立ち」を楽しく学ぶ体験型キャリア教育プログラム
モア・ザン・マネー
小学生向けプログラム
お金の管理と銀行、価値観と職業倫理などの5項目を柱に授業を展開
キャップス
小学生向けプログラム
児童がグループで帽子販売店を経営する意思決定シミュレーション
ファイナンス・パーク
中学生向けプログラム
生活に必要とされるお金について、大人の立場で生活設計をするプログラム
キャッチ・ユア・ドリーム
中学生向けプログラム
将来につながる自分の価値観を理解し、他人の価値観への共感と理解も深める
ミース
高校生向けプログラム
「エコ・ペン」という商品を製造・販売する仮想企業の経営シミュレーションプログラム
ジョブシャドウ
高校生向けプログラム
生徒が会社に出勤し、社員1名に生徒1名がついて仕事を観察するキャリア教育プログラム
スチューデント・カンパニー・プログラム
高校生向けプログラム
株券を発行し、学校内に会社を設立する実技体験型の経済教育プログラム
JAのプログラムを導入していない学校にJA Japanや企業が訪問し、出張授業を展開するプログラムがいくつかある。
例えば、小学生向けの「わたしたちのまち」は街の成り立ちを学ぶプログラムで、公的機関の役割や地域にある企業の役割を知ることができる。「キャップス(CAPS)」と呼ばれるプログラムでは、帽子販売店の社長になって価格や広告費を決め、他の帽子販売店グループと競争しながら経営していく。そのプロセスで子どもは責任感や意思決定力、リーダーシップなどを身に付ける。
中学生向けとしては、将来の自分をイメージし、なりたい自分になるにはどうしたらいいかを考える「キャッチ・ユア・ドリーム」。高校生向けとしては、「エコ・ペン」という商品を製造・販売する仮想企業の経営を行う「ミース(MESE)」プログラムなどがある。
さらに、高校生向けのプログラムには、よりリアルな経済活動を体験するものもある。そのベースとなるのが高校生を対象にした「ジョブシャドウ」である。高校生が協力会社に出勤し、社員1名に対して生徒1名が、まさに「影」のように付いて仕事を観察するプログラム。働くことについて考え、進路選択や将来設計、職業選択に生かす狙いだ。ジョブシャドウの実施には企業側の協力が不可欠で、外資系を中心に大手EC通販サイト運営会社や生命保険会社、物流会社などの会員企業が受け入れ先として協力している。高校生からの率直な質問に新たな気付きを得る社員も多く、企業側でも大変好評だという。
もう一つの特徴は、高校生向けのプログラムは多くがコンテスト形式であること。その代表に位置付けられる「スチューデント・カンパニー・プログラム」では、実際に学校内に資本金2万円の会社を設立し、商品の開発・生産・販売を行う。コンテストは日本各地で行われ、優秀な成績を残せば16カ国の代表が集うアジア大会の「カンパニー・オブ・ザ・イヤー」で自社商品のプレゼンテーションを行うことができる。
「スチューデント・カンパニー・プログラムは、ベンチャー企業が起業するのと同じで、新しい価値創造ができる商品・サービスを生み出す力が問われるわけですが、ASEAN(東南アジア諸国連合)などの経済成長を遂げている地域の高校生と比べると、日本の高校生は社会の仕組みを理解ができていなかったり、発想力に乏しかったりする面があります。つまり、学力は高いのですが、ゼロから1を生み出す力が弱い。その弱い部分をプログラムで伸ばしていくことが私たちの役割だと考えています」(佐川氏)
ただ、スチューデント・シティやファイナンス・パークを実施するための設備を建設し、維持するにはコストと労力がかかり、行政側も予算確保が難しいという課題がある。そこでJAJapanでは、設備がなくても各プログラムを実施・体験できるアプリ開発などを通して、プログラムを導入する自治体や教育機関をさらに増やしたい考えだ。日本の未来を担う創造力や行動力にあふれた子どもの育成という面でも、今後のJA Japanの活動に期待が高まる。
PROFILE
- 公益社団法人ジュニア・アチーブメント日本
- 所在地:東京都品川区北品川3-9-30
- 設立:1995年
- 代表者:代代表理事 佐川 秀雄