その他 2020.02.28

伝統食のかつお節を現代に合う姿へ こだわるのは「だし感の追求」 マルトモ

「おいしさの現在地」が独自の分析手法で分かる味覚センサー。万人受けする売れ筋のボリュームゾーンや、少数派だが固定ファンを持つ個性派商品のゾーニングも分かる

 

 

新たなベンチマーク「普通の味」で食の未来を変える

 

だしを効かせた、新しい食の未来。その次なるステージを、土居氏は「普通の味、つまり家庭の味です」と語る。これまでの商品開発は極端な言い方をすると、繁盛店や有名店の「おいし過ぎる味」だったという。

 

味覚センサーを駆使したマルトモメソッドも、行列のできる店が「売れる味」づくりのベンチマークになってきた。「でも、その潮目を変えて、普通の家庭の味を、食の未来形にしていきたいんですよ」。そう土居氏が言う理由は明快だ。

 

おいし過ぎるごちそうは週に1回で満足し、健康への配慮も必要だ。だが、普通の味なら毎日食べたくなり、リピート率も高まる。しかも3食分が「1食を3人」ではなく「1人が3食」となり、商品需要が高まるメリットにもつながる。

 

もちろん、課題もある。普通の味とは何か、ベンチマークがないことだ。

 

「ただ、光明は見えています。多様な食のサンプルデータを集めて解析し、平均値を取るのです。それ以上のことは、詳しく言えませんが――」と土居氏。さらに、普通の味は開発会議で企画が通りにくいこともハードルになった。

 

「試食してもらった感想は『なんだこれ、普通だな』と。一口で違いが分かる繁盛店の味に慣れてしまっているのですよ。だから『一口でなく完食し、明日もまた食べてください。毎日食べたくなる味を作るんですから』と言って乗り越えました」(土居氏)

 

食品業界でエアーポケットとなってきた、普通の味。その可能性の大きさに業界全体が気付き始めている。

 

「自宅でだしを取らず調理もしない時代になり、普通の家庭の味を外食や中食に求めているなら、その受け皿を用意しないといけない。食の外部化ならぬ『だしの外部化』にチャンスがあるということです」(土居氏)

 

マルトモが描く食の未来は、地球環境の未来にもつながっている。生珍味やコラーゲンサプリとして販売するクラゲの保水力に着目。愛媛大学との協同研究で、天然由来で土に返り樹木の栄養分にもなる土壌改良剤「くらげチップ®」を開発した。2019年2月には愛媛県などと森林整備に関する活動協定を締結し、売り上げの一部を寄付している。

 

「年間5000tのかつお節の生産には、煙でいぶす焙乾工程に同量の木材が必要です。間伐材を使うだけでなく森を育てる貢献も果たしていく。食品以外で唯一の商品ですが、当社には意味のあることです」(土居氏)

 

地域の伝統食を継承する普通の家庭の味を守り、豊かな食をもたらす環境も守る。和食とだしの価値が世界へと浸透する中で、かつお節から始まる物語には、楽しみな「続き」が待っている。

 

 

マルトモ 取締役 開発本部 本部長 土居 幹治氏

 

 

Column

SEDAで描く「ブランド+レシピ」の企業価値

「感動を、けずりだそう」。マルトモが掲げる企業キャッチコピーは、削り節を食べた時のおいしい感動品質を、一人一人が削り出していく思いを表現している。その思いを具現化する商品開発戦略の指標が「SEDA」(下図)だ。

 

「SとAが持つすごい価値(ブランド)をEとDで深掘りし、現代に合う新しいカタチ(レシピ)に生まれ変わらせ、さらにお客さまに伝わるように発信する。プレ節®もそうやって誕生しましたし、『企業の価値=ブランド+レシピ』です。ただ、日本の企業はEとDで具体的な答えに落とし込むのが苦手。GAFAに勝てないのも、レシピに差があるからです」(土居氏)

 

「おいしくて健康」という本質的な価値を、ライフスタイルやトレンドの変化に適応する姿で、消費者に分かりやすく伝える解決策。それが、25μの薄さの実現やプレミアムカテゴリーの創出、“21世紀の猫まんま”という新しい食べ方の提案だ。良いところに磨きをかけ、変えられることは積極的に変えることで、伝統というブランドを生かしきり、目に見える新しいレシピの魅力へと導いている。

 

 

 

PROFILE

  • マルトモ㈱
  • 所在地:愛媛県伊予市米湊1696
  • 創業:1918年
  • 代表者:代表取締役社長 今井 均
  • 売上高:222億円(2019年3月期)
  • 従業員数:517名(2019年3月末現在)