その他 2020.02.28

伝統食のかつお節を現代に合う姿へ こだわるのは「だし感の追求」 マルトモ

豆腐、おひたし、お好み焼きのトッピング。和食の原点とも言える、だし。どちらにも伝統食のかつお節は欠かせない存在だが、さらに日本の食の未来をつくる挑戦が始まっている。

 

 

 

 

独自のマーチャンダイジングで新たに開発したプレ節®

 

栄養価が高く保存に適し、トッピングにも、だし取りにもいい。マルチユースな日本の伝統食がかつお節だ。

 

その存在を全国で最も身近に感じる街がある。瀬戸内海西部、伊予灘を臨む愛媛県伊予市。この地に本社を構えるのが、国内シェアトップ3の一角を占め、2018年に創業100周年を迎えたマルトモである。

 

荒節や枯節の削り節、だしパックに顆粒「だしの素」、液体つゆ。かつお節から派生する商品群で競い合う中で、マルトモはチルド製品やサプリメント、ペットフードなど、時代のニーズや食文化の変化に合う味づくりにも力を入れてきた。そしていま、新たな商品開発で大ヒットしているのが「プレ節®」だ。

 

鹿児島県枕崎市の協力工場で製造したアミノ酸とイノシン酸含量の高い特許製法の枯節を、薄さ25μ(ミクロン)に削って柔らかな食感も実現。高い技術力を結集し、2015年の発売から4年連続で10%増と快調な売れ行きを見せる。

 

「特許製法の強みに加え、豊かな味わいを伝えるために、高級志向の『プレミアムシリーズ』という価値カテゴリーブランドを創出しました。25μのソフト削りで口溶けが良く、味を濃く感じるので、ご飯に乗せてもしょうゆ要らず。おいしく食べやすく減塩もできる“21世紀の猫まんま”が誕生しました」と、同社の取締役開発本部長・土居幹治氏は言う。

 

「おいしさ」のシーズと「プレミアム感」のニーズ、「食べやすく健康」というウォンツ。その三つを満たす要素がそろい、新しい食べ方も提案するプレ節®が、人気ブランドとして独走する理由がもう一つある。特許製法はすでに一部公開され、競合他社が後追いすることも可能だが、それができないのは独自のマーチャンダイジングを構築しているからだ。

 

生のカツオ原料をマルトモと協力工場が協議して購入し、協力工場でかつお節に仕上げてマルトモで削り節を作る。その三位一体のバリューチェーンによって、協力工場は営業活動なしに一定の仕事量を確保でき、経営が安定。マルトモも厳選の素材を安定的に入手し、トレース(履歴管理)も完璧。消費者に良いものを安価で供給できる仕組みである。

 

「透明なバリューチェーンで互いの信頼が深まって、思い切った商品開発の挑戦もしやすい。40年前から続くこの仕組みがあるからこそプレ節®が実現したのです」(土居氏)

 

 

 

 

 

25μの薄さで、口溶けの良いおいしさとしょうゆ要らずの減塩効果を実現した「プレ節®」。ターゲット顧客に定めた30・40歳代女性に好感度が高い俳優のディーン・フジオカさんをCMに起用したことも人気を後押しする

 

家庭用も業務用もだしを効かせた優しい塩味に

 

タンパク質が約70%と豊富で、体内で合成できない全9種類の必須アミノ酸をバランス良く摂取でき、疲労回復効果もある。室町時代には「花鰹」と呼ばれ、江戸時代に製法が定着して400年続いている健康食・かつお節。そのどこに着眼するかが開発成果を左右する。マルトモがこだわるのは「だし感の追求」である。

 

約100種類のうま味・香味成分を抽出するかつおだしは、和の食文化に欠かせないものだ。「だしが濃いと薄味でもおいしい。だから減塩効果が生まれ、低カロリーで満足できるため健康な食卓になります。また、素材の旬の味を楽しめて、味覚や人格の礎となって人間力の形成にもつながる。目指す姿は、2013年に和食が世界文化遺産に登録された理由と、ほぼ共通しています」(土居氏)

 

「だしを効かせたやさしい塩味」をコンセプトに新しく商品化したのが、特殊だしを配合したタレをかけ、電子レンジでおかずを作る調味料「お魚まる」「お肉まる」「お野菜まる」シリーズである。「特に、和食で難しいといわれる煮魚を、電子レンジだけで調理できるのは画期的です」(土居氏)。日本食糧新聞社の2019(令和元)年度「新技術・食品開発賞」も受賞した。

 

だし感へのこだわりは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの総菜や外食産業のメニューを開発する「だしコン」(だしのコンサルティング)でも発揮している。ある外食チェーンが導入したラーメンは、だしコンによりだしのうま味を生かして脂分や塩分を減らし、低カロリーのヘルシー食へと変身を遂げた。

 

「業務用食品の世界でレシピ提案は当たり前のことですが、私たちはそれだけでなく、だしコンによって新しい食の未来を提案しています」(土居氏)

 

こうした従来にない価値を持つ開発・提案を可能にするのが、レシピを数値化し味のポジショニングを分析する「マルトモメソッド」だ。おいしさを客観的に評価できるよう、人間の舌を模した味覚センサーを2004年に導入。味わいや商品コンセプトの“現在地”や他社製品との比較などが、レーダーチャートやマッピングで一目瞭然に分かる優れものである。

 

例えば、液体つゆは以前、コク味もうま味も高いのが売れ筋のボリュームゾーンだったが、近年はより薄味へと変化。売り手は味を薄くして特売品にでき、買い手も猛暑続きであっさり爽やかな味を好む傾向が見えてくる。そして、だしを効かせて薄味でおいしくすれば、どちらのニーズも満たすことができる。

 

「蓄積したデータと分析ノウハウで、トレンドも、おいしさと価格の満足度の高いバランスも分かります。それができるのは私たちだけですし、お客さまの納得度が違いますね」(土居氏)