その他 2020.01.31

設計業務が効率化できる建材情報のプラットフォームを構築:トラス

 

トラス 代表取締役 久保田 修司氏
2014年にトラスを起業。「日本の建材が豊富なら、その材料選びも大変なのでは」という考えが湧いてきたのが起業のきっかけです

 

 

膨大な数の外壁、内装材、断熱材などをメーカー横断で簡単に検索でき、しかも性能や価格を比較できる建材情報のプラットフォーム「truss」。このウェブサイトによって、建築設計はどのように変わるのだろうか ――。

 

 

煩雑な建材選びが簡単なウェブサービスを考案

 

建材(建築材料)の種類は膨大だ。一戸建て住宅1棟当たりの部材・部品数は1万点以上とされる※1。それぞれの素材や性能、サイズ、色などを含めると数十万点にも達している。設計者(建築士)は、何百社ものメーカーがそれぞれ発行している分厚いカタログのページをめくり、膨大な種類の製品群の中から使いたい外壁や内装材など、適切な建材を選ばざるを得ない。

 

設計者は業務の一部にすぎない建材選びに多くの時間を割かなければならず、煩雑なことこの上ない。そんな設計者の悩みを解決しようと生まれたのが「truss」である。2016年9月に建材検索サイトとして開設され、掲載している建材数は33万7976製品(2019年12月現在)。主要メーカー約80社の製品を横断的に選べるとあって、3000名を超える設計者が利用している。

 

同サイトを立ち上げたのは、トラス代表取締役の久保田修司氏だ。東京大学大学院を修了後、大手総合商社の丸紅に入社。建材検索サイトを立ち上げるために退職し、2014年にトラスを起業した。久保田氏は学生時代、建築を専攻していたが、当時の建設業界は給与や長時間労働など待遇面があまり良くないことを知り、大きな建設プロジェクトと携われる商社に就職した経歴を持つ。

 

「丸紅では海外の水道インフラの整備や海水を真水にするプラントの仕事に携わっていました。海外赴任の際、たまたま仕事でヨーロッパに3週間程度行った時に統一された外壁など、街並みの美しさに感動したんですね。ところが、日本に帰国したら建物の色やデザインはバラバラ。良くも悪くも(日本は)建材の種類が豊富ということが分かりました。建材が豊富ならその材料選びも大変なのでは、という考えが湧いてきたのがそもそものきっかけでした。事実、知り合いの小さな設計事務所に行くと、その規模に不釣り合いなほど数多くの建材カタログが並べられているのを見て、この状況を何とかしようと起業しました」(久保田氏)

 

久保田氏は早速、資金集めのための投資家へのプレゼンテーションと同時に建材メーカーを回った。各メーカーに、建材検索サイトの構築に当たって協力を要請するためだった。が、なかなか人と会えなかったり、面会しても色よい返事をもらえなかったりすることが多かった。それでも2年ほどの間に約60社から同意を得て、トラスの設立にこぎ着けた。

 

※1 野村総合研究所「建設資材の物流に関する現状と課題について」(2018年12月21日)

 

 

建材の検索ページ
サイズや価格だけでなく、使用する建物の種類や柄など多彩な項目から建材を検索することが可能

 

 

スペック表記の統一や比較検討できる機能も

 

久保田氏は建材メーカーの同意を得る作業と並行して、建材検索サイトの構築も進めていった。しかし、そこである問題が浮上した。建材のスペック(性能)などを示す表記をどうするかである。

 

建材の色・柄・素材・特性・サイズなど、製品の選択に不可欠な要素の表記が、メーカーによってバラバラだった。例えば、同じブルーでもA社は「スカイブルー」、B社は「アクアマリン」といった具合である。単位についても「m2」「坪」「ケース」など各社によって異なっていた。

 

建材を検索するサイトとしては、表記を統一しないと使い勝手が悪い。そこで設計者の意見をヒアリングし、統一表記を決めて検索できるようにした。これらの膨大なカタログ情報は、建築設計の経験がある社員が集めてチームをつくり、データベース化していった。

 

「例えば、外壁や内装材のサイズ表記はm2単位に統一しました。これによって設計者は複数メーカーの製品のm2当たり価格がすぐ分かるようになり、コストの比較検討もしやすくなりました」(久保田氏)

 

もちろん、サイズや価格だけでなく、色や柄のデザイン的な要素、耐火構造やシックハウス規制などの法規、熱伝導率や抗菌、耐荷重といった性能なども表記統一した。必要な項目を指定すると、それらに適した建材がリストアップされる。

 

さらに、truss では他の資材系サイトに見られない機能を搭載した。設計者が選択した建材について、各メーカーの製品の性能値や価格の分布をグラフ上に点として表示(ドットプロット)するサービスだ。例えば、断熱材では縦軸に「熱伝導率」、横軸に「価格」を置いた点グラフが表示される。縦軸では下にいくほど熱伝導率が低い(性能が優れている)ことを示し、横軸では左側にいくほど安いことを意味する。つまり、グラフ図の左下に位置する断熱材は「熱を通しにくい上に価格が安い製品」ということが一目瞭然に分かるのだ。

 

「グラフ上の点をクリックすると、該当製品の詳細情報を見ることができます。そこから詳細な機能や価格なども把握でき、スピーディーに目的の製品を探すことが可能になりました」(久保田氏)

 

そんな利便性の高い機能が、設計者から支持を得ているのは言うまでもない。

 

 

ドットプロット
検索した建材の性能値・価格をプロットしたグラフで、候補製品の比較と絞り込みが可能