M&Aを経営の選択肢の一つとして当たり前のものにする——。人材マッチングサービスでキャリアの選択肢を広げたビズリーチが、事業承継に新たな選択肢を提供しようとしている。
ビズリーチといえば、管理職やグローバル人材など、即戦力となる人材と企業を結ぶマッチングサービスを展開する企業だ。同社はいま、事業承継を目的としたM&Aを支援するサービスに乗り出している。
きっかけは、自治体などから寄せられる相談だった。
同社の設立は2007年、そこから2年後の2009年4月に、企業がヘッドハンターや人材紹介会社を介さず自分たちで即戦力を採用できるようにするというコンセプトのもと、転職サイト「ビズリーチ(BIZREACH)」を立ち上げた。求職者がキャリア情報を掲載すると、採用を希望する企業からメッセージが届く仕組みで、求職者は自分のスキルや経歴がどう評価されているかを客観的に知ることができる。開始から10年で着実に利用者を増やし、いまや求職者179万人以上、採用企業約1万2000社に上る採用プラットフォームとなっている。
「企業に所属して働いていると、自分にどれだけの市場価値があるのか知る機会は限られています。しかし、私たちのサービスを利用していただくことにより、採用を希望している企業からスカウトを受け取り、自分の市場価値を知ることができます。その結果、キャリアの選択肢を広げることが可能になります。私たちが創出したキャリアに対する新しい価値観だと考えています」。事業承継M&A事業部の事業開発部部長・前田洋平氏は胸を張る。
サービスの知名度が上がるにつれ、地方の企業や自治体から「幹部人材の採用に困っている」との相談を受けることも増えてきたそうだ。
そこで、採用活動を行っている企業の意向を深く探っていくうちに、後継者が見つからないという課題を抱えている企業が多いことに同社は気付いた。
「マクロ的に見ても、中小企業経営者の年齢は急速に上がっています。このままでは、遠くない将来、日本経済を支えてきた中小企業が大量に廃業・解散しかねない。後継者不足という大きな社会課題を解決するために、私たちにできることはないかと考えるようになりました」(前田氏、コラム参照)
事業承継にはいくつかの形がある。一つは親族あるいは従業員による承継。かつてはこの形が大半で、事業が順調であれば後継者に困ることはなかった。だが、少子化などの影響から外部人材の登用を考える企業が増えてきた。即戦力のマッチングはビズリーチが得意としてきたところだが、価値ある事業を未来につなげていくためには、後継者採用に加え事業承継の支援も不可欠であると考えた。そこで、第三の選択肢として事業承継したい企業と、譲り受けたい企業のマッチングを行う事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード(BIZREACH SUCCEED)」を2017年11月にリリースした。
基本的な仕組みは「ビズリーチ」と同じだ。事業を譲渡したい企業が、概要やアピールポイントをサイトに登録すると、譲り受けたい企業が検索し、興味のある企業にメッセージを送る。双方が納得すれば、NDA(秘密保持契約書)を交わし詳細を開示、当事者同士の面談を経て、合意に至れば譲渡が成立する。
譲渡企業は利用に際して一切費用がかからず、匿名での掲載が可能。声が掛かるのを待っているだけではなく、譲渡企業側から、“これだ” と思う譲り受け企業へアプローチすることも可能だ。サービス開始から2年で譲渡案件の登録数が2000件を超え、譲り受け企業登録数も累計で4600社以上にまで成長した。
「銀行やアドバイザリー企業による代理登録も可能で、そのお力によるところも少なくありません。多様なステークホルダーと協力しながら、後継者不足という社会課題を解決していきたいです」(前田氏)
実際、このプラットフォームは大きなマッチング力を持っている。例えば、全国で120軒以上のホテルを運営するブリーズベイホテルは、これまでも積極的にM&Aを進めてきた。自社の情報を公開した状態で事業を譲りたいホテルを公募したところ、公開からわずか4カ月で2件の承継が成立した。
いずれも地方に立地する後継者不在のビジネスホテルで、M&Aアドバイザーの代理登録がきっかけとなった。ブリーズベイホテルにとっては、チェーン展開を強化することができ、譲渡企業にとっては、ホテル運営のノウハウが提供されることで、顧客への満足度を高めることにつながっている。
「ブリーズベイホテル様の公募ページには、経営者や譲渡した方のインタビュー記事を掲載し、承継への思い、過去の承継実績、具体的なM&A戦略なども紹介しました。中小企業庁の調査では、後継者不在の企業がM&Aを行う際の障壁として『判断材料としての情報が不足している』という声が最も多く、会社の未来を託せるか、判断するための情報が求められていると考えたからです。事業を譲り受ける企業が公開している事業承継への思いや希望条件に共感した企業が応募くださるため、承継につながったのではないかと考えています」(広報室広報グループ・辻?香織氏)