「リスクを一つずつ洗い出し、その解決策と妥協できるポイントを探っていき、決断することの連続です。M&Aを進めていた期間は、神経をすり減らしました」と、髙橋氏は初めてのM&Aを振り返る。ここで妥結できなければ、この話はご破算だと思ったことも一度や二度ではなかったという。だが、「その問題点があるからこそ、諦めず解決に向けた話し合いを重ねることができ、事業を進化させられるのだ」と気持ちを奮い起こした。
「幸い、グループ会社にはM&Aを経験した社長が何人かいましたので、相談に乗ってもらうことができました。それに加えて、タナベ経営のアドバイスも的確でした。先方の会社の帳簿を見て、私たちが気付かないポイントを一つ一つ包み隠さず話してくれた。ありがたかったですし、ずいぶんと勇気づけられました」(髙橋氏)
合併は髙橋氏自身にとって、よい勉強になったそうだ。
「当社に足りないものや、特徴がよく分かりました。札幌はそれほど案件が多くないこともあって、1人で全てやれる。その一方、東京は分業制で、1案件に対して複数名で取り組む。このような方法もあるのだなと思いました。ただ、それぞれの特徴を踏まえた上で今後目指すのは、札幌も東京も1人で完結して案件を遂行できるようになること。案件の規模によって、複数名が関わることもありますが、基礎となる一人一人の力を高めていきたいです」(髙橋氏)
M&Aを成功させるために不可欠なことは、との問いに対して、髙橋氏は今回の経験も踏まえて「社風を見極めること」にあったと答える。
「もちろん大前提として、必ず成功させるという買い手トップの強い意志と明確なビジョンは絶対必要です。その上で、社風を見極める力が問われると思います。結局、組織は人です。その人がどのようなマインドを持っているかがすなわち社風ですし、そこには、その企業の理念や歴史、どのような育成を行ってきたかが全て表れます。私たちは、仕事を発注させてもらうことで社風を確かめました。買収対象の会社が店舗を持っているのであれば、一度はその会社の社員が働いている所にお邪魔して、現場を見ることがやはり大事なのではないでしょうか」(髙橋氏)
目下の課題は、人材の交流をどう進めていくか。電話のやりとりなどで裏方の仕事を依頼したり、逆にされたりということはすでに始まっているものの、社員から「どこまでお願いしてよいのか分からない」といった声が上がっており、互いにまだ距離がある。まったく違う企業文化で長く過ごしてきた者同士、すぐにチームを組んで仕事をするのは簡単ではない。交流会などの企画を考えても、両社の間には1000㎞の距離があるだけに、一度に会う機会を設けることも難しい。
ただ、M&Aの失敗事例を見ると、互いの社員が顔も合わせたくないとこぼすケースも少なくない。その点、互いの距離感をつかみきれずに戸惑いの声が上がることは、逆に良い兆候だと見てとれよう。髙橋氏の人柄と、一つずつ課題をクリアにしていく慎重さがあったからこそ、互いを知りたいという空気が生まれているのだろう。
M&A成功の鍵は強い意志と明確なビジョンを持ち、
社風を見極めること
PROFILE
- タカハシアートプランニング㈱
- 所在地 : 北海道札幌市西区琴似1条3-3-14 3F
- 設立 : 2010年
- 代表者 : 代表取締役会長 髙橋 康弘
- 代表取締役社長 髙橋 和也
- 売上高 : 15億円(2019年8月期:旧合併対象会社分を合算)
- 従業員数 : 20名(2019年10月現在)