社員のスキル向上を図る研修プログラムはさまざまあるが、大胆にも「チャンバラ合戦」を企業研修に取り入れたイベントが話題を呼んでいる。しかも、チームビルディングやリーダーシップの向上などに大きな成果を上げているという。
陣羽織姿で刀を持った大人たちが、歓声を上げて敵陣に走り出す。一方で、押し寄せる敵から大将を守るため、陣形をつくって防御を固める。参加者たちの表情は輝き、童心に戻ったかのような笑顔がはじける。
これは、IKUSAがNPO法人ゼロワンと共同運営するイベント「チャンバラ合戦-戦IKUSA-」のひとコマだ。企業がチャンバラ合戦を社員交流のアクティビティーとして活用しているのである。チームビルディングやリーダーシップ向上に効果があるとして、企業の人事担当者から評価が高い。
「チャンバラ合戦」と「社員研修」という取り合わせがユニークだが、実はこのプログラム、もともと企業向けのサービスではなかったという。
「大阪の地域活性化のため、インバウンド(訪日外国人旅行客)向けに実施したイベントが最初でした。日本らしさが味わえ、ゲームとしても面白いものはないかと考えていた時、“チャンバラ”が浮かんだのです。地域の祭りに提案して採用されたのを契機に、一気に広がりました。盆踊り、カラオケ、出店など、地域の祭りはどこも画一的な企画でマンネリ化していました。そこに、多世代参加型のコンテンツとしてチャンバラ合戦を持ち込んだのです。お城や古戦場のある地域では郷土の歴史を知るきっかけになりますし、子どもたちが思い切り外で遊べるイベントとしても人気を集めました」
そう説明するのは、IKUSA代表取締役CEOの赤坂大樹氏である。織田信長・徳川家康連合軍と浅井長政・朝倉義景連合軍の間で行われた「姉川の戦い」や、豊臣秀吉の居城・長浜城が知られる滋賀県長浜市の祭りで採用され、その後、新しいコンテンツを探していた大手旅行代理店を通して各地に広がった。
すると、社員の離職に悩む企業がチャンバラ合戦を知り、定着率向上のためのイベントとして活用するようになった。当初は社員間の交流を深めるアクティビティーとしての利用だったが、徐々にチームワークやリーダーシップの向上にも役立つという評価が定着。今では年間160イベントを開催するチャンバラ合戦のうち、約7割を社内イベントや企業研修が占めている。
なぜ、チャンバラ合戦がチームビルディングやリーダーシップの醸成に有効なのか。その秘密は「プログラム」にある。
「チャンバラ合戦-戦IKUSA-」は、腕に“命”と呼ばれるボールを装着し、それをプラスチック製の刀で落とすというルールの説明から始まる。参加者がルールを把握したら、相手のボール(命)を落とすための刀の使い方を練習する。その後は「軍議」「合戦」の順番でゲームが行われる。軍議ではチームで戦略や戦術を相談し、その作戦に基づいて合戦を行う。
合戦は「全滅戦」「大将戦」「バトルロイヤル」の3種類。全滅戦はチーム全員が命を落とすか、最後に命の少ないチームが負けになるゲーム。大将戦は、味方の大将が命を落とした時点で負けとなる。バトルロイヤルはチームに関係なく行われる個人戦。生き残りを懸けて全員が敵になる、いわば最強の侍を決める合戦だ。三つの合戦の所要時間は1時間半から2時間程度である。
「ルールが異なる三つの合戦は全て軍議を経て行われます。軍議ではチーム内でアイデアを出したり、意見交換を行ったりします。その際にチーム内のコミュニケーションが活発になり、『敵を倒す』という共通の目的に向けた連帯感も生まれ、チームビルディングなどに効果があるのです。また、体力差にかかわらず老若男女が一緒に楽しめるのが特徴。実際に体を使いながらチャンバラをする楽しさが一体感をつくり上げます」(赤坂氏)
合戦後は、参加者全員での記念撮影と表彰式が行われる。これが職場の一体感をさらに醸成する。陣羽織や甲冑のレンタル、オリジナルの幟などはオプション料金が必要だが、気分を盛り上げる必須アイテムとして人気は高い。
IKUSAのチャンバラ合戦研修は、軍議と合戦を繰り返して三つの合戦を行うのが基本プログラム。ただ、企業のニーズに合わせてカスタマイズもしている。
「アクティビティーとして活用する場合、軍議の時間を短くし、合戦を重視した運用を行います。チームビルディングの研修であれば、チーム内の意見交換が活性化するように軍議時間を長めにするなどの工夫を行います。軍議には当社のスタッフがファシリテーターとして参加し、軍議が活性化するように促したり、自らアイデアを出したりして作戦の立案を手伝います」(赤坂氏)
チャンバラ合戦の実施においては、導入企業の人事担当者に入念なヒアリングを行い、ニーズを把握した上で軍議時間などを調整している。こうした細やかな運用が、企業の高い評価を受けているようだ。
IKUSAのチャンバラ合戦研修を活用するのは、中堅・中小企業が中心。社員数が数百名規模で、IT企業や士業(弁護士、公認会計士事務所など)、コンサルティング会社(採用系、IT系)が多いという。開催場所は運動場や体育館の他、野球場や陸上競技場を借り切って大規模な合戦が行われることも珍しくない。
合戦の参加者数は平均70~80名。ただ、「社員数が数百名以上の規模になると、全社的な社員間コミュニケーションを図る機会が少ない背景もあり、社員間の交流を活性化させたい企業は多い」(赤坂氏)。社内の絆が希薄化しやすい大企業にもニーズがあると赤坂氏はみている。
チャンバラ合戦を研修に活用する場合、「頭で理解する」のではなく、「体で楽しむ」ことが最も重要だとも赤坂氏は指摘する。
合戦後、参加者にリポート提出を求める企業もあるという。だが、提出を義務付けるとリポートありきの研修になってしまい、チャンバラの楽しさが半減する。「リポート提出とチャンバラ合戦は切り離すべき」と同氏はアドバイスを送る。体験内容を分析するより、楽しい時間を共有した体験そのものが大事なのだ。