強い者しか生き残れない環境は、社員をじわりじわりと痛めつける。
たとえ成長スピードが鈍っても、全員が笑顔で活躍できる会社になろうと決断したトップ産業の代表取締役社長・松岡康博氏は、アカデミー(企業内大学)を開校した。
トップ産業グループは、トップ産業、優生活、トップラボ、トップファクトリー今治で構成されている。中核となるトップ産業は1970年の設立で、家庭用品や繊維製品をはじめとするオリジナル生活用品の企画開発から製造、販売、広告の企画・制作までを手掛けるという、メーカー機能を有する総合商社。全国の生活協同組合(以降、生協)に向けて、「主婦モニター」の声を反映させた数々のヒット商品を供給している。2020年には設立50周年という大きな節目を迎える。
優生活は2006年の設立で、一般消費者へ向けた通信販売とECを展開。食料品を中心に家電・家庭用品、自動車関連用品など多彩な商品を取り扱う。近年人気の「訳あり商品」の火付け役でもある。
トップラボは2007年の設立で、主婦モニター制度の運営や商品企画に関わる撮影などのディレクションを行っている。最近は海外向けの商品販売も始めた。
トップファクトリー今治は、2014年にM&Aで傘下に収めた愛媛県今治市のタオル製造工場。空気と水を利用する日本古来の空調の仕組みを備え、独特の風合いを持った高級タオルが製造できる。生協はもちろん、ドラッグストアやホームセンターへと販路を拡大している。
グループ共通の基本理念は「生活文化創造企業を目指して」。生活文化創造企業の具体像として「今日よりも明日、明日よりも明後日、毎日をもっと便利に楽しくするものを、私たちが考え出し、世の中に提案し続ける」を掲げている。
グループ化が始まる前年のトップ産業の売上高は約52億円(2006年9月期)だった。以降は順調に売り上げを伸ばし、直近のグループ全体の売上高は約107億円(2019年9月期、見込み)に達する。
「このような急成長が、深刻なひずみを生んでいたのです」と語るのは、トップ産業の代表取締役社長・松岡康博氏だ。常に高みを目指すが故、社員により高いレベルの仕事を望むようになる。その結果、「努力して期待に応える社員」と「努力してもついていけず脱落する社員」の二極化が進んでいたのだ。
「当時は『強い者しか生き残れない。それが会社というものだ』と割り切っていました。しかし、せっかく入社してくれた若者たちが夢半ばで会社を去る無念さ、それによって会社全体のモチベーションがしぼんでいく状況を目の当たりにすると、『強い社員が引っ張っていくだけの会社では駄目だ。たとえ成長スピードが鈍ってもいいから、全員が笑顔で活躍できる会社になろう』と思うようになりました。そして、『全員が活躍できる土壌をつくるには、早い段階での教育が必要不可欠』という結論に達したのです」(松岡氏)
社員教育を見直した松岡氏は、若手社員との意識の差異に直面した。ここ10年ほど、トップ産業の人材採用は基本的に新卒のみで、新入社員教育の主体は旧来のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)だった。ひと昔前の新入社員は、「分からないことは先輩に聞け」「技は盗むもの」といった暗黙のルールの中で仕事を覚えた。ところが、最近の若手社員は「学ぶ意欲」や「成長する意欲」が非常に高いのに、先輩へ質問することに相当なストレスを覚える傾向があるという。
「当初は『人に質問することが、そんなにストレスなのか』と驚きましたが、OJTは担当業務やサポートする先輩によって成長スピードにばらつきが出るのは事実。また、その瞬間ごとの断片的な経験しかできませんから、仕事の全体像を描くのは至難の業です。教育の仕組みを刷新し、社員を救う方策を模索していました」(松岡氏)
そんな折に、松岡氏はタナベ経営からこんな提案を受けた。「学校をつくりませんか」