その他 2019.10.31

社会の公器を追求し続けて事業転換に成功。経営再建から東証1 部上場への飛躍:スマートバリュー

ICT(情報通信技術)で社会課題の解決を追求するスマートバリュー。同社は創業間もないベンチャー企業ではなく、電装品販売から携帯電話ショップ、さらにICT事業へと2度の転換を遂げた老舗企業である。

 

「歴史に残る」社会システムを創る

 

2018年12月、東証1部に上場を果たしたスマートバリュー。「スマート&テクノロジーで歴史に残る社会システムを創る!」というミッションの下、ICT(情報通信技術)を通じて社会課題の解決に挑む企業である。社会全体がデジタルシフトしていく時代に、行政手続きをIT化するGovTech(ガブテック)の「デジタル・ガバメント」領域と、IoT(モノのインターネット)を移動手段などで活用する「モビリティ・サービス」領域を中心としたソリューション・サービス事業を展開している。

 

デジタル・ガバメント事業では、自治体と地域社会・住民とのコミュニケーションを創発するクラウドサービスを提供。行政機関の積極的なウェブ活用による「オープンガバメント」を見据え、防災・防犯・観光・就労・手続きなどの生活に必要な情報を発信するサービスを展開し、地域の課題解決を実現している。

 

一方、モビリティ・サービス事業では、自動車などを対象に、IoTを活用したクラウドサービスを提供。具体的には、自動車などから取得した多様なデータを分析・活用することで、交通事故の削減、渋滞の緩和、車両利用の効率化といった社会課題の解決を図る。現在、同社の法人向け運行管理システムは約2万台の車両に導入されており、事故の削減や環境負荷の低減に貢献している。

 

同社の代表取締役社長・渋谷順氏は、こうした事業を通じて「社会の公器として、スマート&テクノロジーで歴史に残る社会システムを創ることが当社のミッション」と抱負を述べる。

 

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事業転換で厳しい経営状況から脱却

 

ICTビジネスで成長中というと、ベンチャー企業やスタートアップ企業と思われがちだが、スマートバリューが東証1部への上場に至るまでには、四半世紀にわたる事業転換へ向けた奮闘があった。

 

同社の前身は堺電機製作所。1928年に渋谷氏の祖父が個人事業(堺バッテリー工業所)を立ち上げ、自動車のバッテリーなど電装品の製造を手掛けた。戦後間もない1947年に法人化し、電装品の販売や修理に特化した事業を開始。その後、渋谷氏の両親が二代目として承継した。

 

「電装品の販売会社といっても、巨大な自動車産業におけるサプライチェーンの末端に位置するような存在で、経営は好調とは言い難かったですね」(渋谷氏)

 

転機となったのは、1994年に父が急逝したときのこと。30歳の渋谷氏は、経営を継いだ際に財務状況を初めて知って強い衝撃を受けたと言う。そのときのことを渋谷氏は「当時の事業規模からすると、過大な借金がありました。既存のビジネスを続けるだけでは返済が困難だったことから、新規ビジネスを早急に立ち上げる必要があったのです」と話す。

 

1990年代半ばといえば、バブル景気の崩壊に伴う経済不況で企業の経営破綻が続出した時代だ。一方で、時代はパソコンの一大普及期を迎えるなど、ICT時代へと突入していた。先行き不透明な経営環境の中、過大な借金という不安を抱えながらもこの機を逃さなかったところに、渋谷氏の先見性を見ることができる。

 

同社は自動車の電装品販売を手掛けていた縁で、1990年からNTT関西移動通信網(現NTTドコモ)の指定代理店として、自動車電話の販売と取り付けの業務を行っていた。「当初は月に数台程度の設置にすぎなかった」が、これをきっかけにNTTドコモ1次代理店として携帯電話の販売に乗り出した。

 

電装品の販売や修理とはまるで縁のない業態への進出であったが、これが後にICTの分野を切り開くきっかけとなった。「父が亡くなって半年後にドコモショップ岸和田店を開きました。自ら店長となって携帯電話の販売に奮闘したわけです」と、渋谷氏は当時の経緯を振り返る。

 

その後、同社はドコモショップを大阪南部などで展開する一方、1995年にNTTパーソナル通信網とPHS(簡易型デジタル電話システム)の販売代理店契約を締結した。PHSは、デジタルコードレス電話から発展した通信システムであったことから、当時、データ通信の可能性が指摘されていた。これを新ビジネスの好機と捉えた渋谷氏は1996年にスマートバリューを設立し、一般第二種電気通信事業者認可を取得。プロバイダー事業に乗り出したのである。

 

その後、2004年からはデータセンターの運営を手掛けるまでに事業を拡大。レンタルサーバーの提供にとどまらず、顧客がホームページを開く上で必要となる機能を提供していった。関西の主要な地方自治体のホームページや電子申告・入札などのシステムには、同社の機能が多数採用されたという。これが現在の事業の基盤となっている。

 

同社がICTで勝負をかける上で、地方自治体と自動車という事業領域に絞った理由について、「いずれもICTの普及が遅れていた領域だから」と渋谷氏は言う。

 

「民間企業であれば、進化が早い上に競争も激しい。その点、地方自治体と自動車は参入が難しい分、ライバルが少ないというメリットがありました」(渋谷氏)