そんな状況の中、小原氏は少しでも企業の上司・部下の関係性の改善を推進しようと、講演や書籍を通じて中間管理職者が自ら人間関係を改善するヒントを伝えている。具体的には、人が対人関係の中で「一人一人に無意識に発揮している対人キャラクターを自己認識する」手法である。この手法は、次の五つの段階を踏んで人間関係の改善を図るものだ。
まずステップ1は、自分自身が職場や部下、同僚にどのような影響を与えているかを振り返ってみることから始める。ステップ2では、一般論ではなく、自分が職場の雰囲気、働く環境にどのようなプラス、マイナスの影響を与えているかを具体的に確認する。
ステップ3では、自分の言動が交流相手(部下・同僚・関係者)の一人一人にどのようなプラス、マイナスの影響を与えているかを認識する。続くステップ4では、ステップ3で気付いたマイナスの影響を与えている対人キャラクターを、プラスの対人キャラクターと意識的に入れ替える。ステップ5では、その入れ替えた結果を数カ月後に評価(コミュニケーション状況など)する。
「各ステップでは、ワークシートを用いながら自己理解を図っていきます。これを何度か繰り返し行うことで、中間管理職者自身が周りにどのような影響を及ぼしているのかを客観的に自覚するようになります。自覚できれば、自分が改善すべき点も具体的に明らかになるので、職場の人間関係を大きく改善できると考えています」(小原氏)
中間管理職者の自覚によって部下との円滑なコミュニケーションが実現できれば、職場の人間関係も改善が図れる。ただ、そこからさらに大きな変革を行うためには、やはり経営者の協力が不可欠だという。
中間管理職は、実務者と監督者を兼任する「プレーイングマネジャー」である場合が多い。だが、プレーヤーとして自分自身の結果を出しつつ、部下にも結果を出させるようにマネジメントすることは容易でない。心にゆとりがなければ、部下に対する配慮が欠けてしまいがちになる。
「そこで経営者の方にお願いしたいのが、中間管理職者への支援です。その際に大切なのが、彼・彼女らを“管理”するのではなく『信頼して応援する』という姿勢です。経営者から信頼されているという気持ちがベースとなり、心のゆとりにつながって、部下に対しても公正明大な言動ができるようになるのです」(小原氏)
さらに小原氏は、ベテラン従業員の積極的な活用を提言している。仕事の経験が豊富で、信頼されているベテラン従業員に、現在の業務に加えて産業カウンセラーの資格取得を促す。そして、ダブルジョブ(社内兼業)をしてもらうというアイデアだ。カウンセラーの資格を持つベテラン従業員が、各職場でメンタルヘルスケア、人間関係の活性化の促進などを行うことで大きな改善が見込める。同時に、優秀なベテラン社員の活用にもつながるとアドバイスを送る。
Column
異なる領域を有する専門家が職場環境改善を支援
日本産業カウンセラー協会の活動領域は、「メンタルヘルス対策の支援」「キャリア形成への支援」、そして「職場における人間関係開発・職場環境改善への支援」の三つである。一見するとそれぞれ異なる領域に見えるが、いずれも、より良い職場環境づくりの貢献につながる領域ばかりだ。
説明するまでもなく、メンタルヘルス対策支援は職場における人間関係の改善と密接に関連している。また、キャリアの在り方が従業員のメンタルに大きな影響を与えることもある。
「当会は、一般的に〝メンタルヘルスに特化した専門集団〟と思われがちですが、実は産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの両方の資格を持った実践家の会員が、多数存在する全国規模の組織。つまり、『職場環境改善(働きやすい生産性の高い職場づくり)の専門家集団』です。このような専門家集団はあまりないと思います。今後もこの強みを生かしながら、働きやすく、生産性の高い職場づくりに寄与していきたいと考えています」(小原氏)
PROFILE
- 日本産業カウンセラー協会
会長(代表理事)
小原 新(おばらあらた)氏 - シニア産業カウンセラー、SPトランプ・ファシリテイター、キャリアコンサルタント、衛生管理者。1946年生まれ、中央大学卒。1969年、現日鉄建材㈱に入社、人事労務を中心に担当し、人事部長、役員を経て同社顧問。2010年に退社。一般社団法人日本産業カウンセラー協会専務理事、副会長を経て、2017年会長就任。元東北大学大学院経済学研究科非常勤講師。元NPO法人キャリアコンサルティング協議会会長。著書に『人事部主導によるパワハラ解決と管理者研修ドリル』(経営書院)。
- (一社)日本産業カウンセラー協会
- 所在地:東京都港区新橋6-17-17 御成門センタービル6F
- 設立:1960年
- 代表者:会長(代表理事)小原 新
- 会員数:3万2900人(個人、2019年7月末現在)