「パインアメ」で有名なパインの公式ツイッターが注目されている。12万以上のフォロワー数を集める大阪の中小企業が、ここまで人気を得ているのはなぜか――。そこには、懐かしさから「新しさ」をつくり出す工夫が散りばめられていた。
社内で承認された理由は“お金がかからないから”
缶詰のパイナップルを模した愛らしい形と、飽きのこない甘酸っぱい味わい。誰もが知っているロングセラー商品「パインアメ」を製造販売するパインが、ツイッターで人気を集めている。フォロワー数はすでに12万を超え(2019年8月末現在)、ツイッターを通して食品、衣料、雑貨、ゲームまで業界を超えたコラボレーションが広がっている。
同社がツイッターを始めたのは2010年のこと。係長のマッキーさん(ご本人の希望により名前は非公表)からの提案がきっかけだった。
「社内で月1度の提案活動が行われていましたが、上司がもともと開発部だったことから管理部門でも提案活動を推奨。私は個人的にツイッターを楽しんでいたので、『会社でも始めたら面白いのでは』と思って提案しました」(マッキーさん)
日本でツイッターのサービスが始まったのは2008年4月。高校生を含めた若者を中心にユーザーは広がっていたが、大手であっても公式アカウントを持つ企業は数える程度だった。ようやくメディアが一部の企業の活用事例を取り上げ始めたころだ。
一方、同社はそれまで広報や広告宣伝を特に行っておらず、この提案が通る可能性は低いように思われた。ところが、いくつかの社内会議を通って公式ツイッターは見事に承認された。その最大の理由は、「タダ」だったからだという。
「『お金をかけずに広告できるなら良いのではないか』と、ゆるっと認められました」(マッキーさん)
なんとも大阪の企業らしい発想であるが、「良いことはすぐに取り入れる」という同社の気質が後押ししたことは確かだろう。
ネットとメディアで大きな話題呼ぶ
公式ツイッターは無事に承認されたが、次の問題は誰がツイッターの「中の人」(担当者)になるか。そもそもツイッターを知っている社員がいなかった。そのため、提案者であるマッキーさんに白羽の矢が立った。
担当を命じられるとはまったく思っていなかったマッキーさんだったが、「責任の重さを感じながらも、『面白そう!』という気持ちの方が強かった」と当時を振り返る。スタート時のフォロワーは20名ほど。ひっそりと始まったが、発信する内容やタイミングを試行錯誤したり、「パインアメ」とつぶやいている人にリプライ(返信)を送って公式アカウントを紹介したりと、地道な活動を続けるうちにじわじわとフォロワーが増えていった。
この流れが突然変わったのは2012年11月28日。この日のつぶやきが、状況を一変させることになる。
「(…… きこえますか… きこえますか… みなさん… パインアメです… 私は今… みなさんの心に… 直接… 呼びかけています… パインアメは… 鳴るように作っていません… 吹いても鳴らないのです… )」
実は、業務で来客の対応をするマッキーさんは、「普段から『パインアメって鳴りますよね』という言葉をよく掛けられていた」と言う。残念ながら、パインアメは吹いても鳴らない。鳴るのは、同じ大阪市の菓子メーカー・コリスの「フエラムネ」である。
「形が似ているからか、勘違いされている方が多いという実感はありました。これはツイッターのネタにすると面白いと思い立ちました」
この実体験に、そのころツイッター上ではやっていた「きこえますか…」というフレーズを合わせて発信したところ、想像をはるかに超える反響が寄せられた。瞬く間にリツイート(RT)が広がり、1日で2万5000RTという記録を樹立したのだ。
「これをきっかけにフォロワー数が増えましたし、『パインアメを買いました!』というツイートもたくさんいただきました。また、メディアから取材に来ていただくほど話題になったことに、社内が非常に驚いていました」(マッキーさん)
何げない気付きから始まった“鳴らない事件”には、さらに思いがけない展開が待っていた。このツイートを見たコリスから声が掛かり、「フエラムネ パインアメ味」が商品化。“鳴るパインアメ”が消費者に喜ばれたのはもちろん、同社にとっても「ツイッター発のコラボレーション」という、貴重な経験となったのだ。