子どもたちの人気職業にランクインした、いわゆる“YouTuber”と呼ばれる「動画クリエイター」。そんなクリエイターが表現するタイアップ動画に、多くの企業が新しいプロモーションメディアとして注目し始めている。
「HIKAKIN(ヒカキン)」や「はじめしゃちょー」という名前を聞いたことはあるだろうか。テレビで活躍するタレントや芸人ではない。動画共有サイト「YouTube」に自主制作動画を投稿し、若者に絶大な人気を誇るクリエイターたちである。
トップクラスのクリエイターはチャンネル登録者数が数百万人に及び、再生回数が1000万回を超える動画も少なくない。いまや子どもたちの憧れの職業として上位にランクされたクリエイターは、若い世代に大きな影響力を持つ存在と言える。
2013年に設立されたUUUMは、こうした動画クリエイターを多数サポートマネジメントする企業だ。現在、約400名の人気クリエイターと専属契約を結び、約8000チャンネルのクリエイターネットワークを持つ。ちなみに人数ではなくチャンネル数でカウントするのは、1人で複数のチャンネルを持つ場合もあれば、グループで一つのチャンネルを持つケースもあるためだ。
「当社の鎌田和樹(代表取締役社長CEO)が、現在、日本を代表する動画クリエイターのHIKAKINと出会ったのがそもそものきっかけです。その時にクリエイターとしての大きな可能性を感じ、彼らが表現しやすい環境を整備し、各種サポートをするために起業したのがUUUMです。現在は『セカイにコドモゴコロを』を経営理念にさまざまな活動を行っています」
そう語るのは同社執行役員(バディ・プランニングユニット統括)の竹川洋志氏だ。
同社の事業は大きく四つに分類される。まず所属クリエイターのマネジメントをはじめ、育成支援などを行う「サポート事業」、クリエイターの感性やクリエイティブ力を生かしたプロモーションプランニングなどの「インフルエンサーマーケティング事業」、イベント、グッズ、カジュアルゲームなどの「ライブ・エンタテインメント事業」、自社運営チャンネルやクリエイターの動画編集のサポートを行う「メディア事業」などを展開している。
特に最近、多くの企業が注目するのが、ユーチューブで動画を配信する「インフルエンサーマーケティング」である。従来のテレビタレントとは異なるクリエイターたちの個性や表現方法に脚光が集まっている。
多くの企業や団体が注目する背景には、若者たちのテレビ離れとユーチューブを代表とするインターネット動画メディアの視聴時間の伸長がある。10~20歳代では、1週間に視聴する時間はすでにインターネット動画がテレビを逆転し、長時間視聴しているという調査結果も出ている。
さらに、従来のインターネットの活用方法は、ヤフーなどのポータルサイト機能を持つサイト経由でワード検索をしながら、興味のある情報を見る流れだった。しかし、今ではポータルサイトを経由せず、ユーチューブなどにアップされた好きなクリエイターの動画チャンネルをダイレクトに見るというように目的が明確化している。つまり、好きなクリエイターのコンテンツを見るために、ユーチューブを訪れるわけである。
そんな中、企業などの広告主は、プロモーションをしたい商材のターゲット層とファン層が合致するクリエイターに周知・宣伝を依頼するケースが増えている。クリエイターのチャンネル内でタイアップ動画を公開し、メインターゲット層の心を捉えようという狙いからだ。
「数百万人もの登録者がいるチャンネルを持つクリエイターの影響力は大きい上に、ファンが能動的にチャンネルを視聴するというのも、動画クリエイター起用の大きな理由だと思います。ユーザー自身が能動的に動画を見に行くため、商材の魅力や特長が伝わりやすいというメリットも生まれます。そして、一番重要なことは、動画クリエイターは、“演者”であるだけではないということ。つまり、台本通りに演じるのではなく、自分が興味のある商材のみを取り上げて、その人なりの視点や表現方法で魅力を伝える。そんな彼らの世界観があるから、商材の魅力がファンへダイレクトに伝わるのです」(竹川氏)
そしてもう一つ、広告主が動画クリエイターを起用する理由に「情報量の豊富さ」もある。通常、テレビCMでは15秒や30秒という限られた時間の中で商材の魅力を伝えなければならない。ところが、ユーチューブの動画視聴時間は一般的に3~5分。その分、内容の濃いプロモーションが可能になる。
広告主は、商材をある特定のクリエイターに紹介してほしいという明確な戦略を持つ場合と、どのクリエイターに依頼すればよいのか分からないケースがある。そんな時にマッチングを図るのもUUUMの役割だ。
「クリエイターの指定がある場合、そのご意向とともに、対象商材との親和性も踏まえて、コーディネート役を担います。一方、広告主が依頼するクリエイターを絞り切れていない場合は、当社が適切なクリエイターを何人か選んで提案することもあります。こうしたキャスティングを担うのも同社のマネジメントの一つです」(竹川氏)
さらに、動画制作に必要な素材の提供、動画撮影や編集補助といった、コンテンツ制作の各種支援も行っている。
こうしたさまざまな活動を行う同社の収益構造はどうなっているのだろうか。通常の動画の場合は、ユーチューブ上の動画視聴に付随して発生する広告収益の一部がクリエイターに還元される。一方、同社に所属するクリエイターの動画の場合、プラットフォームからのアドセンス収益をいったん同社が受け取る。その後、同社から所属クリエイターに収益の一部を支払うという流れだ。(【図表】)
広告主の商材を紹介するタイアップ動画の場合は、タイアップ動画を制作・公開し、広告主からの対価をUUUMが受け取り、その一部をクリエイターに支払う。
UUUMの合計売上高(アドセンス収益とタイアップ広告)は、2014年度の12億円強から、2015年度に30億円を突破、2018年度には約166億円に達するなど、驚異的な成長を遂げている。
【図表】UUUMのビジネスモデル