5Sと「見える化」の実践で無駄な在庫、要らない工具、邪魔な備品が減り、工場が機能的に。生産性が上がっただけでなく、「営業ができる工場」へと進化を果たした。
伝統工芸(金箔、漆器、友禅、陶磁器)の産地で知られ、現在も全国屈指の工業都市である石川県金沢市。同地に本社を置く部品加工メーカー・富士精機の主力製品は、「ブッシュ」と呼ばれる円筒形の軸受けだ。また変速装置(トランスミッション)などの産業機械に不可欠な高硬度の精密部品を生産する。主要取引先は県内の小松市を創業地とする建設機械大手のコマツだが、近年は他の産業機械・建設機械メーカーとも取引が増えつつある。
「ブッシュ、軸受けは動く機械なら必ず使われているものなので、新しい顧客へのアプローチにも力を入れています」。同社の取締役工場長で、営業の指揮も執る前川要氏は言う。売上高は一貫して右肩上がりを続けており、2019年6月期には過去最高額(12億5000万円)となった。前川氏が工場長に就任した6年前に比べ約1.5倍の伸びである。さらに3年前に立てた「月商1億円」の目標も達成した。
同社は、生産拠点を労務費が安い海外へ移し、価格競争で優位に立とうとする動きに同調しない。高付加価値で難しい、他社がやりたがらない分野にチャレンジすることで支持を得るのが基本方針だ。そのために欠かせないのが、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)と「見える化」だった。
前川氏が工場長に就任した当時は、業績が伸び、従業員数も増えていた時期だった。いきおい工場内の秩序は乱れがちになる。設備は汚れが目立ち、配置は場当たり的で通路にまではみ出し、至る所に物が積まれ、タバコを吸いながら作業する者もいて、納期が遅れることもたびたびあった。
「これはマズイな」。そう思った前川氏は、「工場長の私が現場のことを聞かれて答えられないようではダメ。うまく回っているのか、どこに問題があるのか、まずは私が見えるように」と、5S・見える化に取り組んだ。
スタートは整理・整頓、すなわち「2S」からだった。要らない物を捨て、要る物を残し、置き場を決めていく。しかし、たったそれだけのことが意外とできない。特に「捨てる」が難しい。「もったいない」「たまに使う」「何かに使える」で、逆に増えていくことすらある。
例えば、前川氏が現場から上がってくる消耗品の注文をチェックしていると、明細書に「スパナ」とあった。現場にはスパナがあふれていたはずだが……。工場の全員にスパナを出させると、1m四方のスペースにあふれるほどのスパナが出てきた。一事が万事、この調子だった。
そんな現場の状況を写真に撮り、整理・整頓の重要性と5Sに取り組む必要性を説く一方で、協力的な姿勢を見せた若手社員には「ここ(作業場所)をモデル部署にしないか?」と呼び掛けた。「全面展開」ではなく“一点突破”から始め、横展開へつなげていく作戦だ。こうして整理・整頓が軌道に乗ってくると、おのずと無駄な物を持たない、作らないための「物の流し方」に意識が向くようになった。
一般的に、一回一回作るより、まとめて作った方が効率的だと考えられがちだが、「大量に作ってためておいた仕掛品を、次の工程の人が探し出すというのは時間の無駄だし、現金が形を変えてここ(現場)に残るわけです」(前川氏)。同氏は社内の勉強会で、材料の手配やお金の流れなどを説明しつつ、仕掛品を作らない流し方、合理的な設備の配置を進めていった。
こうして工場のあちこちにため込まれていた仕掛品の山が徐々に消え、かつて材料、仕掛品、完成品(在庫)合わせて4カ月分あったものが、現在では1.9カ月分に激減した。目標は1.5カ月分だという。