「働き方改革」が叫ばれ、多くの企業が残業削減などにチャレンジしている。そんな中、独自の視点から「働きやすい環境づくり」を実践するオフィス用品メーカー、コクヨの取り組みを追った。
働き方改革によって、多くの企業で残業削減や育児休業の取得率向上などが進んでいる。こうした「制度」の他、グループウエアやチャット、テレビ会議システムなどの「ITインフラ」を活用する動きも活発だ。そんな中、オフィス用品メーカーのコクヨでは「働く環境」を加え、三つの視点から、働き方改革を行っている。
そんな考え方の背景には、過去に同社が行った調査結果がある。それによると、働き方改革に着手している企業は約半数の45%。しかし、そのうち改革に「効果あり」と答えた企業は26%で、全体のわずか約4分の1にとどまる。
さらに経営者と従業員に分けて行った調査では、興味深い結果が出た。「働き方改革に効果があった」と答えた割合は、経営者39%に対し、従業員はわずか19%。つまり、81%もの従業員が「効果なし、または悪化」と認識していることが分かった。
これらは、現場不在の働き方改革が進められている証左だと言えよう。実際、調査結果からは「『業務量は減らさず労働時間だけ削減』はあり得ない」「残業禁止はサービス残業、早朝休日出勤が増えるだけ」「育休・時短勤務者が増えたら、それ以外の人の負担が増えた」といった声が上がった。
この調査結果から、コクヨは制度やITインフラだけで働き方改革が成功することはないと捉え、自社の事業にも直結する「働く環境づくり」を推進することで、従業員の働き方改革を実践していった。
「当社はオフィス用品メーカーというイメージが強いかもしれませんが、以前から『働きやすいオフィスづくり』に向けたソリューションを提案してきました。このサービスは自社で長年取り組んできた経験に基づくノウハウでもあり、それを提供することで、お客さまの課題解決を実践しています」
そう語るのは、コクヨの販社支援グループGMで働き方改革提案プロモートディレクターの田島徹也氏だ。働き方改革が叫ばれる前から、コクヨでは働く環境を整えることに着眼し、生産性の向上に寄与してきたのである。
コクヨでは「快適性」「効率性」「創造性」の視点から、「働きやすい環境づくり」を推進している。
「快適性」とは、働く人が気持ち良く能動的に働ける環境のこと。例えば、洗練されたデザインでスタイリッシュなオフィスも快適性に含まれる。快適なオフィスは、従業員のモチベーションを高めるだけでなく新卒学生などへのアピールにつながり、優秀な人材確保という面でも効果が期待できる。
「効率性」とは、働く上での無駄を改善することで、より良い成果を出していける環境のこと。不要なものを収納するスペースを減らしたり、会議時間の短縮が図れるよう立ち会議用のデスクをオープンなスペースに設けるのも、効率性向上を見据えた設計の一環である。
「創造性」とは、気付きやアイデアを生み出せる空間づくりだ。他部門の従業員が集まりやすいレイアウトの工夫、リラックスできるフリースペースの確保、さらには周りを気にせずに仕事に集中できる個室など、さまざまな目的の空間を創ることで、創造性ある仕事を後押しするという考え方である。
「この三つの視点から改善していくことで、大きな変化が期待できます。さらに、快適性、効率性、創造性を維持・向上させるための具体的な手段として、『場』『ツール』『運用』という三つの要素からアプローチしていくことが重要。これらをバランスよく取り入れることで、生産性の高いオフィス環境が実現できるはずです」(田島氏)
言い換えれば、会議室やリフレッシュスペースなどの「場」をつくり、オフィス家具や文具類といった「ツール」を活用するだけでは不十分ということだ。そこに適切な「運用」が伴わなければ、働きやすい環境の維持・向上は難しい。
適切な運用とは、5Sやファイリングルールの徹底など、場やツールをどう使っていくかということ。これらの要素をうまく組み合わせていくことが、働きやすい環境づくりにとって重要なのである。
「その際に忘れてはいけないのが継続性です。一度改善して安心してしまうと、やがて陳腐化します。常に変化し続けるオフィスの課題を解決できるように活動を継続することで、働く環境は大きく改善されていきます」(田島氏)