企業と高齢者の両方に提供
では、企業は高齢者のどのような要素にニーズを感じているのだろうか。マイスター60が行ったアンケート調査やヒアリングを通して浮かび上がってきたのは、「知識や経験が豊富で即戦力」「現役世代に比べてコストが安い」「社会人としての常識を十分に備えている」。雇用コストもさることながら、スキルに期待していることが分かる。一方、高齢者の方は「生活のため」「やりがい・生きがいを求めて」「健康のため」が主な理由のようだ。
長年にわたり、多くの高齢者と企業のニーズをマッチングさせてきたマイスター60は、高齢者がセカンドキャリアを踏み出す際の成功例と失敗例を数多く見てきた。
「失敗例として一番多いのは、マインドチェンジができなかったケースです。つまり、現役時の職務や地位にこだわったり、プライドが邪魔したりして、新しい職場に適応する柔軟性に欠ける場合です」(井口氏)
成功要因としては、「経験が求人ニーズに適合している」「専門性が高く、実務執行能力が高い」「新しいことにチャレンジする意欲がある」「明るい、若々しい」「バランス感覚・柔軟性に優れている」などを井口氏は挙げる。
このように、マイスター60にはマッチングサービスで培ってきた多くのノウハウが蓄積されている。そのノウハウを「シニアセカンドキャリア支援プログラム(SSSP)」として体系化。再雇用制度を導入している企業の人事部門に、高齢者活用のメリットと注意点、高齢者の強みと弱み、活躍事例、高齢者が職場に望むことなどの情報を提供する。
一方で、雇用延長を選択するかどうかを迷っている企業内対象者には、雇用延長や他社での再雇用に当たっての心構え、再就職の成功事例と失敗事例の説明、必要なスキルと事前準備、企業が高齢者に期待していることなどを伝えている。
このSSSPにより、再雇用を希望する高齢者にマインドチェンジの重要性を周知し、再就職する上での準備を支援するとともに、企業に対しても受け入れ態勢の整備を働き掛けているのだ。
加えて、人材の支援策として、2016年に「設備管理技術者育成プログラム」をスタートした。同社の派遣サービスで中核を占める施設・設備管理分野の技能を持つ人材を自社で育て、企業への派遣を増やすために生まれたプログラムだ。
現役時代は事務系など施設・設備管理以外の仕事に従事し、その後、職業訓練校で6カ月間、設備管理を学んで基本的な資格を取得した人をマイスター60で採用する。入社後は社員としてOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で実務経験を積み、スキル評価後に派遣スタッフとして活躍してもらう。
「職業訓練校に通って設備管理の基礎を学び、基本的な資格を取得しているものの、実務経験がなく就業の場を得られない高齢者に、働く場を提供するプログラムです。現在は、施設・設備管理など専門分野のスキルを身に付けたシニアの方が少なくなっているので、人材を育成できるスキームとして考えました。すでに多くの方がこのプログラムを利用し、派遣スタッフとして活躍しています」(井口氏)
単なるマッチングサービスだけでなく、ユニークなセカンドキャリアをつくり出す取り組みを実践している。2014年に創設した「おもてなしシニア隊R」の活動だ。
海外駐在など国際的な経験が長く、日本語以外の言語でのコミュニケーションに秀でた高齢者が、外国人訪日客のおもてなしをするサービスである。東京タワーの飲食/売店フロアでの着物の着付けやガイドサービスのスタッフとして派遣されたのをきっかけに、デパートの健康食品免税店での販売促進業務なども行っている。
おもてなしシニア隊R のように、特別なスキルを備えた高齢者は少なくない。「今後は、さまざまなスキルを持つ高齢者の再雇用を支援できる体制を整えたい」と井口氏は言う。
「当社の登録者には、経営管理職(事務系)として働いていた方も多くいらっしゃいますが、そうした方々に対する求人数はまだ不足しています。今後は、経営管理職の方々の経験を生かせる求人開拓をより一層進めるとともに、新たな職種へのチャレンジを支援するプログラムも構築したいですね」(井口氏)
2020年に設立30周年を迎えるマイスター60。超高齢社会が進む現在、同社の果たす役割がさらに深まることは間違いない。
PROFILE
- ㈱マイスター60
- 所在地:東京都港区芝4-1-23 三田NNビル3F
- 設立:1990年
- 代表者:取締役会長 平野 茂夫?取締役社長 小倉 勝彦
- 売上高:12億1000万円(2019年3月期)
- 従業員数:362名(2019年3月末現在)