しかし、これで「めでたしめでたし」とはならなかった。イロハのイ、基本のキから教え育てた若者たちがスキルアップすると、次々、他社に引き抜かれていった。人を育てるにはカネがかかるから給料は低くなる。人材育成にカネをかけないなら倍の給料を出すこともできる。
「うちに残ったら30万~ 40万円、転職したら70万~ 80万円ですからね。結婚したら仕方ないけれど、独身時代だけでもいてくれないか、と言って引き留めたんですがダメでした。当たり前ですよね(笑)」(青野氏)
引き抜かれてみんな辞めていったらこの会社も終わりかなと思ったそうだが、引きこもりは別の引きこもりを、ヤンキーは別のヤンキーを連れてきた。
「入社希望者が300人ほどいました。多くは中卒で、どこの会社も雇ってくれないヤツばかり」。まるでハローワークか職業訓練校のようだった。
相変わらず一人前になると辞めていく者もいたが、残ってくれる者もいた。ただ不思議とベテランが辞めても売り上げは落ちなかった。
そのとき気が付いた。「自分の知らないところで奮闘している子たちがいたのだ」と。「うちで育ち残ってくれたプログラマーはうちの会社を良くしようと仕事をします。ゼロから育てると、そういう気持ちが育つんです」
それまでは一人でみんなを救おうとしていたが、「仲間を集めて互いに救い合えばいい」と思い始めた。社員には「助けてくれ」「夢をかなえたいんや」と呼び掛けた。気持ちを切り替えると社員一人一人の顔が見えてきた。「みんなの力を信じていなかったときは、全員同じ顔に見えたのに……。初めて仲間を手に入れた気がしました」と青野氏は言う。
かつて中卒、高卒ばかりだった同社に、数年前から、青野氏の考えに惹かれて大学の新卒者も入社してくるようになった。すると会社に変化が表れた。彼・彼女らにも、これまでと同様「夢はかなう」「もう一段上へ行こう」と語り続けた。その人材がいま大きく伸び、会社の成長に貢献し始めているのだ。業務も以前は下請けが中心だったが、現在はIT 企業への出向・派遣に加え、ゲーム開発や受託開発など自社開発部門へのシフトも進んでいる。
26歳のあの夜から、思い続けていることは変わらない。
「人のために尽くそう」。ただアプローチの仕方は少し変わった。これまでは「助けを求めている側」の若者たちを集めてきたが、これからは彼・彼女らを「助ける側」に立つ人、仲間、協力者を会社の内外に増やしていきたいと、青野氏は思う。より多くの人を救うために。そのためには会社を大きく強くしなければならない。当面の目標は年商100億円だ。
PROFILE
- ㈱フリースタイル
- 所在地:愛知県名古屋市中区錦1-5-13
オリックス名古屋錦ビル9F - 設立:2006年
- 代表者:?代表取締役 青野 豪淑
- 従業員数:141名