食品小売業から「生活者支援業」へのビジネスモデルシフト
コンサルティング戦略本部
2017年9月号
社会課題をビジネスチャンスと捉える
A社は、特定地域で店舗展開するリージョナル・スーパーマーケットを運営する創業60年の老舗スーパーである。A社の出店エリアは高齢化率の高い地域であり、前述した人口減少と超高齢社会という社会構造の変化によるマーケット縮小の影響から、業績は悪化していた。そうした中、A社では「地域密着のスーパーとして、地域住民に貢献したい」「そのためには、高齢化が進む当地域でもお年寄りが安心して暮らせる町づくりが必要である」という考えから、訪問介護事業や高齢者向け宅配弁当事業への進出を決めた。
さらには、将来のビジョンを「地域住民が安心・安全に暮らすために必要な食、暮らし、住まいのサービスをワンストップで提供する」とし、サービス付き高齢者向け住宅の運営や高齢者向け旅行事業への進出も検討している。このような取り組みは、消費者との関係強化による「ロイヤルカスタマーの創出」という点で、本業との相乗効果も高く、非常に有効であるといえる。
前述した買い物弱者の増加という社会課題をビジネスチャンスと捉え、新たな事業を展開しているのが、四国を中心に95店舗を展開するB社である。B社は2015年から移動スーパー「おまかせくん」事業を展開し、生鮮品を含む食品や日用雑貨を移動販売車に積み、販売エリアを巡回。利用者宅や高齢者施設などを回る移動販売事業を行っている。順次、取扱商品を増やし、販売エリアを広げるなどサービスを拡大し、買い物弱者の増加という社会課題に向き合い、地域の生活者支援をすることで消費を取り込むという発想で事業を展開しているのである。
他にも移動スーパー事業を展開する企業はあるが、今後は移動スーパーで商品を販売することだけにとどまらない展開が求められるだろう。エアコンの修理や水漏れの修繕対応などのサービスも組み合わせ、高齢者のあらゆる困り事に対応する生活支援のワンストップサービスとして、提供価値を広げていくことも必要である。
このように、食品小売業は従来のありきたりな地域密着・シニア対応だけにとどまるのではなく、地域の生活者支援という発想に立ってビジネスモデルをシフトすることで、来るべき人口減少・超高齢社会という社会構造の変化を機会と捉えてほしい。さらなる成長発展のため、自社の事業展開を検討していく必要がある。