メインビジュアルの画像
コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2025.10.30

はたらく人と組織にまつわる課題に伴走するEAPとは 玉井 敬一郎

課題解決・付加価値創出のマネジメントを支援

EAP(従業員支援プログラム)は、米国でアルコール依存症対策として発祥したサービスである。日本には2000年代、バブル経済崩壊後の過重労働による自殺などが増え始めた時期に、厚生労働省が「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」(2006年3月)を策定したことをきっかけに、サービス提供企業が登場し始めた。

ピースマインドは先行して1998年から、メンタルヘルス不調や休職など「不」を抱える人をケアする支援サービスとしてEAPを提供している。

近年、健康経営、人的資本経営、ウェルビーイング経営といった「人への投資」が潮流となる中、メンタルヘルス対策は重要な経営課題の1つとして認識されている。この課題に対応するため、個々の社員を対象としたカウンセリングだけでなく、人事部門や管理職が担うピープルマネジメントの領域全般において、外部の専門機関へ支援を要請する企業のニーズが高まっている。世の中の価値観や社員が抱える「不」のレパートリーが多様化する中、専門家が支援することでより適切に対応でき、より効果的に解決できるからである。

EAPは、会社に知られることなく利用できる待ち受け的な相談窓口と思われがちだが、ピースマインドのEAPは、心理の専門家であるコンサルタントが、「不」を抱える個人と、人事や管理職といった周囲の支援者と連携しながら、課題解決に向け伴走する専門サービスとしての役割を担っている。また、「不」の課題解決だけでなく、付加価値を創出するコアな機能としてはパフォーマンスの維持・向上も支援する。

ストレスチェックや研修、e-ラーニング、総合的なハラスメント対策支援、想定外の有事のクライシス支援、産業医と連携する産業保健支援、心身が健康な職場づくりのウェルネスプログラムなど、ピースマインドが大切にする価値観である「はたらくをよくするⓇ」を軸に、多様な支援サービスを提供している。

 

高品質のカウンセリングと独自のコンサルテーション

EAP導入支援は、まずプログラムの認知を高めるために、クライアント企業の社員に向けてガイダンスを実施する。「EAPとは何か」「どのような場面で、どのように活用できるのか」といった基本的な理解を促すほか、特に管理職に対しては、リーダーとしてより良いピープルマネジメントのためにEAPの具体的な活用イメージを持ってもらうため、研修形式の利用ガイダンスを開催し、併せて専用の相談窓口も設けている。

上司は自らが直接相談する「当事者」として、また、不調を抱える部下が相談するのを支援する「つなぎ役」として、2つの側面からカウンセリングにおけるキーパーソンとなる。

多岐にわたるピープルマネジメントの課題に対応するポイントは、次の3つである。

❶ 専門家の知見を活用する意識を高める
❷「業務パフォーマンスを発揮できない壁は何か」を整理し、乗り超える方法を一緒に考える
❸ 最終的に課題を抱える本人に壁を乗り超える方法をきちんと伝える


特に、❷において、「課題は何か、解決に向けて何ができるか」をセットで支援する方法論が重要であり、ピースマインドでは❸を「建設的直面化」と呼んでいる。明確な根拠を持つ専門家が後ろ盾になることで、抵抗感を生まずに効果的なアプローチが可能になり、孤独に悩みがちなリーダーも安心感を持つことができる。

また、ピースマインドではカスタマーサクセス部門の担当者を配置し、コンサルタントと二人三脚による独自のコンサルテーション体制を構築。「導入して終わり」ではなく、四半期ごとに利用状況をフィードバックし、結果の検証を踏まえて的確なソリューション提案につなげている。

質の高いカウンセリングと独自のコンサルテーションで、丁寧にコミュニケーションを重ねる支援がピースマインドのスタンスであり、10年以上サービスを継続しているクライアント企業は約30%である。

社員には、一人一人が本来持つポテンシャルを発揮できるパフォーマンスを、組織的な課題には、より働きやすく、働きがいを持てる組織環境や企業文化の醸成を支援することが重要と考えている。メンタルヘルスやパフォーマンスのマネジメントが当たり前の姿になるには、経営層や人事部門がEAPの導入目的を明確に繰り返し発信することが何よりも重要である。そして、リーダーがハブとなってEAPを率先して活用することが、現場に落とし込む原動力になっていく。

 

プロアクティブにエンゲージメントを高める

社員自身のセルフケア、管理職によるラインケア、専門家によるケアといった、EAP活用の意識と行動を促す鍵は、社員がそれを「自分事」として捉えられるかどうかにかかっている。

ピースマインドの支援事例を紹介したい。大手A社は、メンタルヘルス不調を経験した役員が、自らの体験談を語る機会をつくることでインパクトが強まり、社員に浸透するスピードが高まった。中小B社は、部長職に月1回のコンサルテーションを実施することで、少しずつ社員のモチベーションとパフォーマンスが向上するマネジメントに変わった。C社では、担当者によって対応にばらつきが生じていた休職・復職支援制度を見直すことで、休職期間が短縮し、休職の再発率も低下するなどの成果が生まれた。

最近は、ハラスメントをしてしまった行為者へのコーチングも増えている。ハイパフォーマー人材が仕事を効果的に進めるために、悪気なく、良かれと思っての指導が原因となるケースが多い。経営層からの期待も厚く、成長の余地もある人材が離職するのを防ぎ、コーチングを通じてマネジメントスタイルを改善することで、再び組織で活躍できる状態へと変容する事例が増えている。

導入支援は従来、大企業や外資系企業が中心であったが、中堅企業や先進的なスタートアップからも相談が増えている。その背景には、ウェルビーイング経営に対する課題意識や、「このままでは10年後に経営が立ち行かなくなる」という本質的な人手不足への危機感がある。そして、EAP導入は、単なるセーフティーネットとしてではなく、積極的な課題解決策として多くの経営者から注目されている。

中堅・中小企業は、経営者の声が社員に届きやすい強みを持っていると言える。まずは、「社員がどのような思いで会社を捉え、仕事をしているのか」を想像し、社員の生の声を聞く機会をつくることから始めていただきたい。同時に、「社員を大切にする」という企業トップの姿勢を示し、その一環としてEAPに取り組むという意志を、明確なメッセージとして発信することが重要となる。社員のエンゲージメントに関する声に耳を傾けつつ、エンゲージメントを高めるためのメッセージを発信し続ける経営が求められている。

PROFILE
著者画像
玉井 敬一郎
keiichiro tamai
ピースマインド(タナベコンサルティンググループ)
組織支援コンサルティング部 部長
公認心理師、臨床心理士。大学院博士課程を単位取得満期退学後、EAPサービス提供企業にて社員へのカウンセリング、人事部門・マネジメント職へのコンサルティング、研修講師などを担当。その後、英・ロンドン大学にてOccupational Psychology/Organizational Behaviorの修士号を取得し、2013年にピースマインド入社。EAPやストレスチェックを用いた職場改善施策に関する組織コンサルティング業務に従事している。専門分野は、組織人事コンサルティング、管理職コンサルテーション、ストレスマネジメント、ラインケア、ハラスメント対策、キャリアなど。